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バイデン大統領の意向を受けて台湾を訪問した民主党のクリス・ドッド元上院議員と、台湾の蔡英文総統(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(文:野嶋剛)

菅義偉首相の訪米に伴う日米首脳会談の共同声明で、半世紀ぶりに「台湾」への言及が行われた。歴史的な転換である。緊張した台湾海峡情勢のなかで、日米を「巻き込んだ」ことによって一定の後ろ盾を得たことに、台湾では安堵が広がっている。

 今回の共同声明は、台湾問題について米国や日本の関与をとことん嫌い、「内政問題」と位置付けようと努力してきた中国の試みがセットバック(後退)したことを意味しており、台湾問題の位置付けがアップグレードされて「全球化(グローバル化)」した、というのが台湾側の受け止めだ。

 今回、共同文書での文言は「日米両国は台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す」というものだ。米国の重点は「台湾海峡の平和と安定の重要性」にあり、日本側は「両岸問題の平和的解決」を加えることで中国に配慮したと言われる。

 しかし「平和的解決」が入ろうが入るまいが、中国にとってはこうした前例破りは「深刻な現状変更」と認識されるだろうし、台湾は「現状のブレークスルー」と受け止め、政治的な波及を生むことは避けられない。

台湾メディアは一様に肯定的

 台湾の蔡英文政権や世論も、総じて、今回の日米首脳会談には歓迎の意を示している。何しろ、日本では詳しくは報じられていないが、昨年の後半以降、台湾は連日のように中国軍機による防空識別圏を越えた台湾近海への威嚇的接近に悩まされ、1996年の台湾海峡危機以来と言われる緊迫に包まれていたからだ。

 蔡英文総統自身は現時点でコメントを出しておらず、外交部のコメントのみにとどめているのは、中国をこれ以上刺激しないという配慮から来ている。

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