2月15日、ロンドン南東部のオーピントンにある健康福祉センターのワクチン接種センターを訪問した際、アストラゼネカ製のワクチンを手にするボリス・ジョンソン首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

(黒木亮・作家)

 筆者が住む英国では、国民の49.6%がワクチンの1回目の接種を終え、先進国のトップを走っている(2位米国41.9%、3位フィンランド27.6%)。今も毎日40万~50万人のペースでワクチン接種が進められており、変異種ウイルスが猛威をふるった1月には1日6万人超だった感染者数は2000人以下に、最高で1823人を記録した1日の死者数は10人前後へと激減した。昨年3月から(時期によって強弱の差はあれ)ずっと続いてきたロックダウン(外出制限)も徐々に緩和されつつあり、5月17日には海外旅行が解禁され、6月21日には社会的制限のほとんどが解除される予定である。

 なぜ英国が世界に先駆け、これほどワクチン接種で先行することができたのか。その取り組みに迫ってみたい。

ワクチン接種が広がったことで感染者が減少した英国では制限緩和が進んでいる。4月24日のロンドン市内のソーホー地区では、屋外での営業が認められた飲食店に多くの人々が訪れていた(写真:ロイター/アフロ)

1年以上前から大規模接種計画に着手

 英国がワクチンの大規模接種の計画立案に着手したのは昨年1月10日で、まだ国内で最初の感染者が確認されていない段階でのことだ。日本で河野太郎氏がワクチン担当大臣に任命されたのが今年1月18日なので、1年以上先行していることになる。

 マット・ハンコック保健相(42歳)は、2020年中に大規模な接種を開始することを目標に掲げ、昨年4月、首相直属の「ワクチン・タスクフォース」を立ち上げ、トップにケイト・ビンガム氏(55歳)を据えた。オックスフォード大学の生化学の学位とハーバードのMBAを持つ女性で、バイオテクノロジー企業への投資に長く携わってきたベンチャーキャピタリスト(未公開企業投資家)である。