(英エコノミスト誌 2021年4月24日号)

西側陣営は、大統領が悪意ある行動を取る時のコストを引き上げよ。
一方は警察国家に君臨し、他方は身柄を拘束されて死に近づいている。それにもかかわらず、ウラジーミル・プーチン大統領は自分が捕らえさせた囚人を恐れている。
アレクセイ・ナワリヌイ氏は、体力的には弱っているかもしれない。4月に入ってハンガーストライキを続けた後、19日に受刑者向けの病院に移された。
ひょっとしたら、無理やり食べさせられるのかもしれない。
だがそれでも、ナワリヌイ氏がロシアで最も有力な野党指導者であることに変わりはない。ユーモアを交えながら事実を並べていく彼の動画は有権者の心に響く。
例えば、プーチン氏が所有を否定している豪華な宮殿のガイドツアーは、これまでに1億1600万回以上視聴されている。
ナワリヌイ氏は、クレムリンのウソを笑い飛ばすことで一つの運動を作り出し、選挙でプーチン氏の党に挑戦している。
昨年毒を盛られたうえ、その後にでっち上げの容疑で収監されたのはそのためだ。同氏の組織が「過激派」のレッテルを張られ、無情にも閉鎖に追い込まれているのもそのためだ。
さらに言うなら、話をそらし、愛国的なロシア人の支持者を焚きつけることに熱を上げるプーチン氏が近隣諸国を再び威嚇している理由も、これで説明できるのかもしれない。
ウクライナ包囲の真意
プーチン氏はここ数週間で、ウクライナとの国境地域に10万人を超える兵士を集結させた。
ウクライナと言えば、プーチン氏がクリミアを併合し、東部のドンバス地方で親ロシアの分離主義者を支援したことで、すでに一部分割されてしまった国だ。
プーチン氏はまた、海軍を使ってケルチ海峡を封鎖してウクライナの一部を黒海から切り離す構えも見せている。
だが、4月22日になってロシアの国防相は、「演習」が完了したため、ウクライナ国境地帯の部隊を再度撤収させると発表した。
本誌エコノミストが印刷に回る時点で、何人の兵士が実際に撤収するか定かでなかった。過去には、同様な状況で大勢の兵士を撤収させずに残しておいたことが多々あった。
また、このように大規模な兵力を見せつけることでプーチン氏が何を言おうとしたのかもはっきりしない。
同氏の目標は、ウクライナの政治指導者たちを威嚇し、例えばドンバス地方の正式な自治を認めさせるなど、譲歩に追い込むことなのかもしれない。あるいは、将来攻め込むための準備をしている可能性もある。