これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)

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平成29年~令和元年:70~72歳

 河本敦史に社長を譲り副社長に河原淳を迎えた翌年の秋、ハワイ州&広島県友好提携20周年の記念式典が広島市内のホテルで開催された。

 県の担当者から「ぜひ、ご出席を!」との要請を受け出席した恭平だったが、国会議員や知事の居並ぶメインテーブルに案内され、恐縮しながら鎮座していた。

 会が進み、ハワイ州と広島県の友好提携に貢献した広島側の個人3人と1団体に対し、ハワイ州選出の上院議員と下院議員の連名による表彰が予告された。

 こうした両院議員による表彰は稀有な表彰であることが紹介され、ホノルル広島県人会会長のウエイン・ミヤオが最初に湯川英彦知事、続いて森正夫県会議長の名を読み上げた。

 祝福の拍手を続けていた恭平だったが、3人目の名前を聞いた途端、その手が止まった。

「甘宮市商工会議所会頭、ホンカワキョウヘイさん」

 この年で11回開催の「みやじまトライアスロン大会」、相互に数回の交流を重ねた「神楽&フラ公演」、毎年の「コナ・コーヒー・フェスティバル」でのコンサート開催とお好み焼きの実演販売に加え、収益金のドネーションなどなどの継続が評価されての表彰だった。

 ちなみに団体表彰は、2年連続セリーグ優勝した広島カープだった。

 高校時代の県総体ポスター入選以来50数年振りの表彰状授与に雀躍して、妻の淳子にサプライズの仔細をメールすると、短い返信があった。

「どんな勲章よりも嬉しい!」

 翌年早々に、商工会議所の奥山専務理事から打診があった。

「今年の秋の叙勲に、本川会頭に受章の意思があれば申請するよう案内が来ています」

「どこからの案内だ…?」

「経済産業省からです」

「へ~、叙勲って、市役所が推薦するんじゃないの!」

 これまでに恭平は、何人かの先輩諸兄の叙勲祝賀会に出席し、菊の紋章の入ったお盆や朱肉ケース、時計などをもらっていたが、漠然と市役所の推薦だろうと思っていたから、市長と折り合いの悪い恭平には縁のない話だと勝手に決めつけ、全くの無関心だった。

 平成最後の叙勲を受け、皇居への参内と天皇陛下に拝謁の誉れを妻にプレゼントするのも一興と考え、恭平は受章の意思を伝えた。

 併せて型通りの祝賀会は断固として固辞し、自らが主催する感謝会の開催プランを恭平は目論見始めていた。