(英エコノミスト誌 2021年4月17日号)

ミャンマーが良い方向に進めるよう支援できるのは近隣諸国だけだ。
ミャンマーを支配していた将軍たちは、国軍に対しては何の権限も持たないにせよ、とりあえずは選挙で選ばれる政権の樹立に道を拓く憲法を起草した際、この取り決めを「規律ある民主主義」と呼んだ。
政治の世界で無制限に競争が行われると秩序が乱れて国の発展の妨げになる、秩序と繁栄を確実にもたらせるのは国軍だけだ――。将軍たちはこう話していた。
このため、その国軍が2月1日にクーデターを起こして再び全権を掌握して以来栄えた唯一のものが、規律ではなくカオス(混沌)なのは皮肉だ。
クーデター後のカオス
毎日繰り広げられる抗議行動はクーデターの拒絶だが、国軍が丸腰のデモ隊に発砲し始めてからはその規模が小さくなった。
国軍に反抗的な態度を取る地区では兵士が暴れ回っており、手当たり次第に人を殴り、殺害している。
遺体を返すよう懇願する親族に返還料12万チャット(85米ドル)を請求したとの報道もある。
一方、市民は国軍とつながりのある商店に火を放った。ゼネストのおかげで企業活動はマヒ状態に陥っている。公的サービスもおおむね停止している。
国境地帯では、何十年もの間、断続的に政府との小競り合いを繰り返してきた20あまりの武装集団の一部がこの危機に乗じ、国軍の前哨基地や武器貯蔵庫を襲撃している。
国軍側は武装集団の爆撃に乗り出し、難民が隣国になだれ込んでいる。
端的に言えば、ミャンマーは破綻国家になりつつある。
フランスよりも広く、中国とインドというアジアの二大大国と国境を接する領域に力の空白が生じつつある。この空白は今後、暴力と苦しみで埋められることになる。
ミャンマーはまだアフガニスタンほどの無法地帯にはなっていないものの、急速にその方向に向かっている。
軌道を外れてしまった国を元に戻すのがいかに難しいかという、背筋の寒くなる警告が発せられている状況だ。
ミャンマーの破綻は、5400万人のミャンマー国民にとって災難であるだけでなく、アジア全土に波及しかねない数々のリスクも生み出す。