(英フィナンシャル・タイムズ紙 2021年4月1日付)

ロンドン市長だったボリス・ジョンソン氏の選挙演説を聞くデビッド・キャメロン首相(右、当時、2016年3月3日、写真:AP/アフロ)

 デビッド・キャメロン元首相の頭に浮かんだものは何だったのだろうか。

 大きな「$」のマークだろうか、それとも、ロビー活動こそ残りの人生で取り組むべき天職だという思いだろうか。

 面目丸つぶれの金融家レックス・グリーンシル氏のためにキャメロン氏が取った行動は、ブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)をめぐる判断ミスと緊縮財政によってくすんでしまったレガシーを、さらに損なうことになった。

キャメロン元首相は何を考えていたのか?

 世間は、キャメロン氏が政界を引退して地元オックスフォードシャーの小屋に引っ込んでいると思っていた。

 実際には2020年初めにサウジアラビアでグリーンシル氏やムハンマド・ビン・サルマン皇太子とキャンプに興じていた。

 そしてリシ・スナク英財務相に携帯メールを送り、今や経営破綻したグリーンシル氏の金融グループが新型コロナウイルス危機対応支援策をもっと受けられるようにしてほしいと要請した。

 首相経験者ともなれば、銀行に呼ばれて講演するだけで十分な稼ぎが得られる。

 銀行の利益を代弁しなければやっていけないということはないはずだ。ひょっとしたら、キャメロン氏の事例は、「権力は腐敗する」ではなく、「権力の絶対的な欠如は絶対的に腐敗する」ということなのかもしれない。

 英国にとって、これは警鐘だ。

 この国の政治家たちは勘違いしているように見えることが多いものの、概して言えば、賄賂を受け取ったり地位を不正に利用したりしているように見えることは避けてきた。

 直近3代の元大統領のうち2人が汚職に手を染めて有罪判決を受けているフランスとは違う。

 キャメロン氏がグリーンシル氏のために行ったロビー活動は失敗に終わった。要請を受けたスナク財務相が、この一件を冷淡な政府職員に任せたためだ。

 英国のシステムは恐らく、後継者が高潔さを保って行動する限り、過去の人となった政治家がたまに無分別な行動を取っても対処できる。

 問題は、現職の大臣たちの間では高潔さを保って行動しないことが常態化していることだ。彼らは英国政府で、下劣さに対する耐性を新たに作り出している。