(英エコノミスト誌 2021年3月27日号)
新疆ウイグルでの人権侵害への怒りで、不参加を求める声が強まっている。
2015年に国際オリンピック委員会(IOC)が2022年冬季五輪の開催地を北京に決めた時、中国の人権侵害を理由にこの決定を批判する声が一部で上がった。
決定のほんの数週間前に、中国の各地で総計数百人もの市民社会運動家が逮捕されていたからだ。
しかし、五輪主催国の座を中国と争っていたのは、同じく権威主義的なカザフスタンだった。ノルウェーなど民主主義国はそれ以前に招致レースから撤退していた。
中国がそれから2年もしないうちに新疆ウイグル自治区に強制収容所を建設し、宗教的・文化的信仰を理由に100万人を超えるウイグル人を監禁することになるとは、ほとんど誰も想像していなかった。
硬化する西側諸国の態度
IOCがこの決断を下して以降、中国に対する西側諸国の態度はかなり硬化している。
今年1月には、米国が新疆ウイグルでの弾圧を「ジェノサイド(大量虐殺)」と呼んだ。3月22日には米国と英国、カナダ、欧州連合(EU)が足並みをそろえ、新疆ウイグルでの残虐行為に関与した中国政府当局者に制裁を科したことを明らかにした。
人権侵害について中国に圧力をかけようと、西側の列強が足並みをそろえることはめったにない。
これらの国々は、中国が香港で行っている締め付けと、世界規模で推進している自由主義の規範への挑戦にも立腹している。
来年2月4日開幕予定の北京大会は、五輪史上でもトップクラスの物議を醸す大会になるだろう。
米国は1980年、ソ連のアフガニスタン侵攻に抗議してモスクワ夏季五輪をボイコットし、選手団を派遣しなかった。
1984年には当時の東側の国々がロサンゼルス夏季五輪を同じようにボイコットした。同様な行動を2022年に取りそうな国は、今のところ見当たらない。
米国やカナダ、欧州の活動家や政治家の一部からは開催国の変更を求める声も出ているが、これも実行される見通しはない。
五輪はあくまでスポーツの祭典であり、政治は関係ないため計画通り進めるというのがIOCのスタンスだ。