工場が立ち並ぶ新疆ウイグル自治区の首府ウルムチ

米EUは足並み、日豪印は制裁報復を警戒か

 何やら中国の習近平国家主席の高笑いが聞こえてきそうだ。

「ジョー・バイデン米政権の対中包囲網も目論み通りにはいかなかったようだな」という安堵の笑いだ。

 中国は直ちにロシアと外相会談を行い、バイデン政権への対抗で結束を確認。習近平国家主席は北朝鮮の金正恩総書記と中朝団結を互いに求めるメッセージを交換した。

 確かに、あれほど鳴り物入りで打ち上げた日米豪印4か国の枠組み「クアッド」(Quad)だが、最初から綻びが目立っている。

 アントニー・ブリンケン国務長官、ロイド・オースティン国防長官が揃って日韓を歴訪し2プラス2で同盟関係強化を再確認し、「強い立場」で「アラスカ対話」に臨んだ。

 オースティン長官はニューデリーにまで足を延ばしてインドのラジナート・シン国防相と会談し、対中包囲網の外堀を埋めたかに見えた。

 米財務省は3月22日、中国政府による新疆ウイグル自治区での少数民族への人権侵害に関わったとして、同自治区公安局幹部ら2人を制裁対象に指定したと発表した。

(といっても同自治区の公安局幹部が米国内に資産を持っているわけもなく、これはあくまでシンボリックな制裁だ)

 欧州連合(EU)、英国、カナダも同時に対中制裁に踏み切った。中国は、直ちに米国とEUに報復制裁を発表した。

 中国は、欧州議会や加盟国議会の議員ら10人の中国入境禁止を打ち出した。欧州議会のダビド・サッソリ議長(イタリア)はこれに対し、ツイッターでこう反駁した。

「(中国の報復制裁は)受け入れがたく、このままでは済まされない。人権は不可侵の権利だ」

 欧米にとっては人権問題は、国家の安全保障と同じような「不可侵の権利」といった共通認識があるのだ。そういった共通認識がアジア諸国にはあるのか、ないのか。

 米国が軍事外交の主柱だという「アジア太平洋構想」実現のための「同盟国およびパートナー」の日本、オーストラリア、インドは、今回の対中制裁には同意していない。

 米主要シンクタンクのアジア問題担当の上級研究員は、一連の動きについてこう解説する。

「日豪印ともに新疆ウイグル自治区での中国の人権抑圧政策には『深い懸念』と表明しているが、いまのところ具体的には動こうとはしていない」

「三者三様に国内的な理屈はある。が、三国ともに共通しているのは、中国との経済、通商に大きく依存しており制裁すれば報復されるを恐れているからだ」

「もっとも米国はすべて織り込み済みで、日豪印の対応は想定内のことと受け止めている」