中国海警局の公船(写真:第11管区海上保安本部/AP/アフロ)

(藤谷昌敏:日本戦略研究フォーラム政策提言委員・元公安調査庁金沢公安調査事務所長)

 2021年1月22日、中国の全国人民代表大会(全人代)常務委員会は、中国海警局に外国船舶に対する武器使用を含む権限の拡大を認める「海警法」を可決・成立し、2月1日に公布された。中国メディアは、「海警法の目的は国家主権と安全保障、海洋権益を守ることにある。中国海警局は外国船からの脅威を阻止するため、武器使用を含むあらゆる必要な手段の行使が認められると明記された。海警局員が中国の管轄海域で外国船に乗り込み検査することも可能になる」と解説している。

 元々、中華人民共和国の海上法執行機関は、それぞれ専門的な所掌をもつ複数の機関が併存しており、国土資源部国家海洋局海監総隊(海監)、公安部辺防管理局公安辺防海警総隊(海警)、交通運輸部海事局(海巡)、農業部漁業局(漁政)、海関総署緝私局(海関)の5組織があった。だが、職域が複雑に錯綜していたことから、2012年11月の中国共産党第十八回全国代表大会において、胡錦濤国家主席が「中国が海洋強国になることを目指す」と宣言したことを契機に海上法執行機関の整理と近代化への取り組みが開始された。その後、2018年には中国海警局に一本化され、同時に人民武装警察の管轄下に入った。

 今回、習近平政権は、「海警法」を制定したことで、「海警局」を「重要な海上武装力量かつ国家の法執行力量」と位置付け、単なる沿岸警備隊ではなく、国防の一翼を担わせることを明確化した。

 国際法では、領海内であっても他国の軍艦や公船に対する法執行権限は制限されるが、「海警法」は、外国軍艦や公船が「管轄海域」で不法行為をすれば「強制退去・えい航などの措置を取る権利がある」とした。さらに「管轄海域」の範囲について、「内水、領海、接続水域、排他的経済水域(EEZ)、大陸棚、及び中国が管轄するその他の海域」と広い範囲かつ曖昧な表現となっており、「管轄海域」の島や洋上にある構造物を強制撤去する権限も盛り込んでいる。