(英エコノミスト誌 2021年3月20日号)

日本の資本主義には改革が必要だが、革命は必要ではない

かたくなな抵抗もあり、変化のペースは遅い。

 渋沢栄一がブームになっている。「日本の資本主義の父」として知られる19世紀の実業家で、日本初の近代的な銀行など500社あまりの設立を支援した人物だ。

 その生涯をたどる日本放送協会(NHK)の新しいドラマがヒットしており、肖像画が新しい一万円札に描かれることも決まっている。

「時代の変化が渋沢を呼び戻している」

 渋沢栄一の玄孫(やしゃご)で、東京で資産運用会社を経営している渋沢健氏はこう語る。「資本主義を考え直す動きが起こっている」。

論語と算盤

 その渋沢栄一の事業哲学「論語と算盤」が人気を博している。

 江戸時代の教え「三方よし(売り手よし、買い手よし、世間よし)」に共鳴した渋沢は、儒教の集産主義的な道徳と市場の論理を融合させた。

 事業では私益を追求するが、公益に資するやり方で行うべきだ、というのだ。

 もしこれに聞き覚えがあるとしたら、それは「この考え方がステークホルダー資本主義そのもの」だからだ、と日本商工会議所の三村明夫会頭は言う。

 実はこの商工会議所を立ち上げたのも渋沢だ。

 企業は社会的な目的を指針とし、株主利益の最大化にとどまらず幅広い利益に貢献する活動をするべきだとする考え方は現在、先進国で広く支持者を集めている。

 日本は経済大国としては珍しく、それを大規模に試みた。そして失業が少なく、経済格差も比較的小さく、社会の結束も強い裕福な国になった。

 だが、そのシステムは企業の退廃と低い経済成長を助長することにもなった。

 日本はそのようなトレードオフの数々と、それらが今日どのように変わってきているかが観察できるケーススタディーになっている。

 日本の大企業のロビー団体である日本経済団体連合会(経団連)の中西宏明会長に言わせれば、企業は純粋な利益を超越した価値を作り出すべきだという考え方を「疑う者は(経団連には)一人もいない」。

 むしろ、複雑さを増している今日の社会のためになる多様かつ曖昧な価値を「いかに定義するか」が議論のテーマになっているという。