相次いで襲われたアトランタのアジアンマッサージ店(写真:ロイター/アフロ)

 米南部ジョージア州の州都アトランタで3月16日、白人のロバート・エイロン・ロング容疑者(21)がアジアンマッサージ店3軒を相次いで襲撃し、韓国および中国からの移民女性6人を含む8人を射殺した。米国社会を震撼させたこの事件は、アジア系移民およびアジア系米国人への暴力的な犯罪増加が止められなくなっている状況を映し出している。

 事態を重く見たジョー・バイデン大統領は3月19日、アジア系の血を引くカマラ・ハリス副大統領を伴ってアトランタを訪問、地元のアジア系住民の代表者らと面会した。それに続く演説では、米国内で「憎悪と暴力はしばしば黙殺される」と述べ、ロング容疑者が人種的ヘイトに基づいて犯行に及んだことを強く示唆した。

 ところが、米連邦捜査局(FBI)のクリストファー・レイ長官は前日の3月18日、「動機は捜査中だが、人種的なものではないように見える」との見解を示している。筆者は初報に接した際、犠牲者の大半が韓中出身の移民で、かつ犯人が白人であったこともあり、「これは人種ヘイトだ」と直観的に思った。だが、分析を重ねるうちに、レイ長官の「人種憎悪犯罪とは思われない」との意見が正しいと考えるようになった。その理由を記す。

次々と薄まる「人種ヘイト」の線

 まず、決め手になると思われた、マッサージ店の唯一の生き残りである韓国人女性従業員が述べた「犯人は、『アジア人を皆殺しにする』と叫んでいた」という証言のソースが、地元アトランタの韓国語メディア一紙のみで、地元警察や連邦当局、米メディアから当該証言を裏付ける証拠や報道が示されていないことが挙げられる。また、ロング容疑者が従前から人種的憎悪を抱いていたという証拠や証言が現時点では一切ない。

 一方、「容疑者に人種的動機はない」と語った地元警察の白人担当者は「トランプ党」的な人種差別主義者である疑いが強いものの、捜査自体が不適切だというエビデンスはない。レイFBI長官もトランプ前大統領に指名された白人当局者ではあるが、ヘイトであるものをことさらに「ヘイトでない」と強弁するような動機も振る舞いも見られない。

 最も重要なのは、「神」や「家族」を何よりも大切にしていたロング容疑者が、両親から「お前がガールフレンドに逃げられたのは、(セックス目的で)マッサージ店に行くのをやめなかったからだろう」と責められ、以前の同居人に「神に見捨てられた」と話していたことだ。ある夜、ロング容疑者はこの元同居人に、「俺のナイフを持って行ってくれ。刃物があれば、自殺するかも知れない」と電話をかけるほど、自身の「性依存症」に悩んでいた。