(英エコノミスト誌 2021年3月20日号)

独裁体制と自由主義の価値観が、世界を舞台に時代を画する争いに突入する。
3月中旬、中国が香港の民主主義をうち捨てた。
本土による支配の強化は、この都市に住む750万人にとって悲劇であるのみならず、中国は自らの意思を押し通す方法について妥協はしないという固い決意の表れでもある。
1991年にソビエト連邦が崩壊した後、自由主義の価値観が世界各地で支配的になった。中国の挑戦により、その価値観が今後、冷戦時代初期以来の厳しい試練にさらされることになる。
おまけに、香港の経済からも分かるように、中国と西側諸国との結びつきはかつてのソ連と西側とのそれよりもはるかに緊密だ。
そのため自由主義陣営は、時代を画する問題に直面することになる。
中国が台頭するなかで繁栄を維持し、戦争のリスクを低下させ、かつ自由を守るには何をどうするのが最善なのか、という問題だ。
香港弾圧強化の衝撃
香港は、簡単な答えを探している人たちの期待を裏切る。
中国は香港立法会(議会)において直接選挙で選ばれる議員の割合を、これまでの50%からわずか22%に引き下げたうえ、立候補者には「愛国者」であるかどうかの審査が義務づける。
これは、この地における自由を粉砕する作戦のとどめの一撃にほかならない。
抵抗運動の指導者たちは外国に追われたり投獄されたり、2020年に導入された香港国家安全維持法によって威嚇されたりしている。
検閲も活発化しており、香港の裁判官や規制当局は今後、本土への忠誠心を示すよう圧力をかけられることになるだろう。
民主主義国で構成される主要7カ国(G7)は3月12日、条約義務違反に当たる中国の独裁的な弾圧を非難した。中国の外交官はこの指摘を大げさな言葉遣いで否定した。
国境をまたぐ10兆ドルもの投資資金を取り扱うアジアの金融センターで自由主義が死んだとなれば、パニックや資本逃避、企業の大量撤退などが始まるのではないかと思われるかもしれない。
ところが今日、香港は金融ブームを謳歌している。
中国本土の主要企業の香港市場上場により、株式の売り出しが急増している。西側企業がその中心におり、モルガン・スタンレーとゴールドマン・サックスは引受会社の最大手になっている。
香港は世界の準備通貨のハブでもあり、昨年にはここで決済された米ドル取引の総額が過去最大の11兆ドルに到達した。