日本を代表する禅寺の一つ、福井県にある永平寺(川嶋諭撮影)

 突然ですが、皆さんは「マインドフルネス」という言葉をお聞きになったことがおありでしょうか?

 グーグルやフェイスブックが社内の精神衛生管理に導入して成功したことで、ご存じの方もあろうと思います。

 東京大学伊東研究室では、グーグルにマインドフルネス・ストレスリダクションのシステム「Gポーズ」を導入された臨済宗の禅僧で、米コーネル大学・ブラウン大学の松原正樹師を今年から客員教授にお迎えし、グローバルにこの手法とその「効果実証」を世の中の研究者諸氏と全く異なる観点、音楽家、芸術家の実技からみた考え方で進めています。

 なぜ「マインドフルネス」が有効か?

 一言で言うと、それは、少し前までの「カウンセリング」が精神科医によって行われ、同時に処方されていた睡眠薬や精神安定剤を使用せずにも、社内でメンタルを健康に保つことができるようになったこと。

 一度、投薬が重くなると引き返せなくなって 現場復帰できなくなってしまうSEなどが出ていたのを、薬を使わずに同様かそれ以上の効果が上がるようになったことで、回避できるようになったことが、顕著な効用の一つとして挙げられます。

実は伝統的な「マインドフルネス」

「マインドフルネス」。なんとも聞こえのよさそうなカタカナで、最近作られた適当な造語であろうと思われる方が多いかもしれません。

 しかし、この英語を作ったのは、おそらく100年以上前、日本人の禅僧が米国に仏教思想を伝えるために作った翻訳の一つと思われます。

 米国に仏教でピンと来られた方もあるでしょう。

 鈴木大拙(1870-1966)あるいはその妻である鈴木ベアトリスが、マインドフルネスという言葉の、現在の用法を確立した可能性があります。

 東大哲学科を修了した大拙が米国に渡って、東洋関係の書籍出版に携わるようになったのは、1897年。

 まだ日清戦争直後で、八幡製鉄所もできていない、日本は不平等条約改正に必死だった明治30年のことで、大拙は当時27歳の青年でした。

 最初の英語での仏教著作は1900年、「大乗起信論」の英訳を革切りに、精力的な仏教思想の国際発信を開始します。

「マインドフルネス」は、実は「念」という言葉の英訳にほかなりません。