(英エコノミスト誌 2021年3月12日号)

欧州では豊かな国が多いのにワクチンの接種が進んでいない

裕福な地域にしては欧州の遅れが目立っている。

 今日の世界は、新型コロナウイルス感染症「COVID-19」の状況によって3つのタイプに分けられる。

 第1のタイプは、多数の新規感染者に精力的なワクチン接種で対抗している国々で、米国と英国がその代表だ。

 第2のタイプはオーストラリア、日本、中国など、ワクチン接種件数は少ないが懸念される感染者数も少ない国々。

 そして第3のタイプは、新規感染者が多いのにワクチン接種が進んでいない国々だ。

 欧州大陸は、人口の多い裕福な地域としては唯一、この最後の不幸なタイプに分類される(中南米諸国の多くも同様な状況にあり、多くの貧しい国々はデータがそろっていない)。

 パンデミック(世界的大流行)の第1波をかなりうまく切り抜けたと自負していた地域だけに、まさに予想外の展開だ。

「波」というより「うねり」の感染拡大

 各国のデータを集計している「アワー・ワールド・イン・データ(データで見る私たちの世界)」によれば、今年に入ってからの新規感染者と死者数の約4分の1は欧州連合(EU)市民だ。なお、EUの人口は世界全体の6%を占めるにすぎない。

 この地域で6カ月前に始まった感染の拡大はなかなか収まらず、「波」というよりは「うねり」に近い。

 3月上旬にはイタリアが、死者数が10万人を突破した6番目の国(そして人口が最も少ない国)になった。

 COVID-19の勢いが再度強まったことを受け、イスラエルや英国などほかの国々はワクチン接種プログラムを加速させた。

 しかし、欧州委員会は昨年夏にEU向けワクチンの発注でミスを犯しており、接種を大々的に始めるのに十分な量をまだ確保できていない。

 さらにひどいことに、一部の加盟国は配布されたワクチンの多くをまだ使用しておらず、冷蔵庫や冷凍庫に眠らせている。

 こちらは加盟国当局の失敗だ。その結果、これまでに欧州大陸でワクチンを接種できた人の数は、人口100人当たり10人にとどまっている。これに対し、米国は28人で、英国は35人だ。

 感染力がこれまでよりも強い「変異株」の急拡大――今ではポーランドからポルトガルまで、変異株が猛威を振るっている――も相まって、パンデミックはまだ数カ月間続く公算が大きくなっている。

 その悪影響は病棟の外でも感じられることとなるだろう。

 一部の国では病室が埋まりつつある。パリの衛生当局は、急増する感染者への対応の一助として、COVID-19が関係しない手術を40%削減している。