本コンテンツは、2021年2月26日に開催されたJBpress主催「公共DXフォーラム2021~Society 5.0時代に求められる公共DXの進め方~」での講演内容を採録したものです。

中央大学 国際情報学部 教授
東京大学 特任教授
須藤 修氏

経済的発展と社会的課題の解決を両立する「Society5.0」

 現在、日本のあらゆる構想の前提になっているのは「Society5.0」です。これは、総合科学技術イノベーション会議の第5期「科学技術基本計画」において策定されたもの。これが、わが国におけるデジタル社会の展望の基礎となっています。

 簡単にいうと、この「Society5.0」は、サイバー空間とフィジカル空間(現実世界)の高度な融合によって、新たな社会基盤を作る取り組みです。これによって新たな価値を生み出し、創出する産業や社会を形成し、新たな経済的発展、社会的課題に対して解決の方向を模索しようとしています。

 しかし、どれだけデジタル化が進んでも、「社会の中心は人間」であることを忘れてはいけません。あくまでロボットやAI(人工知能)のコントロールをする主体は人間であり、人間のサポートをするためにAIやロボットは存在する、「人間性の尊厳を重視した社会」を作っていくことが大切です。

 これまでの社会には、いろいろと煩雑な作業がありました。しかし、近年はクラウドコンピューターを使い、テレワークによって場所を選ばずに作業ができる環境が整いつつあります。過疎地にいてもドローンで医療品などの重要な物資を在宅で受け取ることができ、5Gを使ったオンラインでの遠隔診療で高度な診断も受けられるようにしようとしています。他にも、配送業などの重労働の仕事も、ロボットを使用したり、人間の能力をサポートするロボットスーツなどの機器を装着して作業できるようにしたりしています。

 その基礎となるのが、クラウドコンピューターです。すでにクラウドコンピューターは社会に普及しています。例えば、AppleのiPhoneの基盤やGoogleのサーチエンジンなどにもクラウドコンピューターが使われ、そこでAIも作動しています。もちろん、NTTや富士通、NECなど、日本を代表する企業のクラウドコンピューティングにおいてもAIは実装済みです。また近年は、キャッシュレス社会と言われていますが、その場合のネット仮想通貨、電子マネーもAIが使用されています。

 今後は、共同利用してもいいデータを集めてさらに高度な連携を達成し、高度なサイバーの世界と現実のリアルの世界を結びつける。そして、現実社会からセンサーでデータを読み取り、高度な人工知能で即座にそのデータを分析・予測。その結果を、人間の意思決定をサポートする形で現実社会に戻していく。こういった循環を形成しようとするのが「Society5.0」なのです。

 「Society5.0」に対し、今までの社会は「Society4.0」になります。これは「情報化社会」と言われるものですが、さらにこれが進化し、現実の社会まで変わろうとしているのです。