(英エコノミスト誌 2021年3月6日号)

放射性廃棄物の問題が解決できなくても原発を使い続けるしか温暖化対策ができないというのは、自然との闘いに人類が勝てないことの証でもある

原発は気候変動との戦いに欠かせない武器だ。

 日本列島で最も人口の多い島、本州の北部の太平洋岸が津波で破壊されてから10年になる。

 この地域では記録が残る限り最も大きかった海底地震と、それが引き起こした津波によって、2万人近い人が命を落とし、10万棟を超える家屋が破壊され、数千万人の生活が大混乱に陥った。

 直接的な経済的コストは2000億ドルを超えると推計され、世界がそれまでに経験したどの自然災害よりも大きかった。

 だが、世界中の多くの人にとっては、この出来事はたった一つのことによって記憶されている。地震に続いて発生した福島第一原子力発電所での危機がそれだ。

フクシマに震撼した世界

 地震によってこの発電所は外部電源から切り離された。津波は防波堤をやすやすと乗り越え、非常用発電機が設置されていた地下壕に押し寄せた。

 浸水のリスクは予測可能だったが、骨抜きにされていた日本の規制当局はこれを予見できなかった。

 原子炉の炉心を冷やす手段がなくなったために、そのなかの核燃料が溶け始めた。

 火の手が上がり、爆発が起き、驚くほど大量の放射能が放出されるなか、燃料は泥のように流れ出し、コンクリートでできた原子炉建屋の基礎を溶かし始めた。

 世界は愕然としながら事態を見守った。上海とサンフランシスコでは、ヨウ素剤とヨウ素添加食卓塩があっという間に売り切れた。

 人々が必要のない予防策を取ろうとしたためだ。

 ドイツでは、財界の指導者たちと一緒になってこの国の強力な反核運動に抵抗していたアンゲラ・メルケル首相が方針を転換し、原発の段階的な稼働停止を命じた。

 中国では、世界最大の原発を新設する計画が延期された。気候変動と戦うための「原子力ルネサンス」の話も聞かれなくなった。