(英エコノミスト誌 2021年3月6日号)

各国政府は社会契約を21世紀向けに作り直さねばならない。
1930年代の大恐慌と第2次世界大戦の後、富める国々の有権者と政府は、国家と市民の関係を作り直した。
そして今、パンデミックが社会的支出についての古いルールをずたずたに引き裂いた。
米国では、ジョー・バイデン大統領の総額1兆9000億ドルの巨大な経済対策を国民の4分の3以上が支持している。
その法案は連邦議会上院に送られており、成立すればほとんどの成人が1400ドルの小切手を手にする。
英国は、公的債務残高が1945年以降で最高の水準に達しているにもかかわらず、3月3日発表の予算案は、一時帰休を強いられている労働者への賃金支払いを9月まで延長した。
このような大胆さには危険が伴う。政府が公的財政を限界まで拡大し、人々のやる気を損ない、階層間の移動がない固定化した社会を生み出してしまう恐れがあるのだ。
しかし政府は、維持のコストが過大でなく、新しい技術によるディスラプション(破壊・混乱)に直面している経済で労働者がちゃんと暮らしていけるよう支援する、新しい社会福祉政策を創り出す機会も手にしている。
この機会は何としてもつかみ取らねばならない。
コロナ下で行われた壮大な実験
世界ではこの1年、社会的支出をめぐる壮大な実験が行われてきた。
2020年に新たに立ち上げられた社会保護プログラムの数は、全世界の合計で少なくとも1600件に達する。裕福な国々では、記録的な数の労働者を支援するために平均で国内総生産(GDP)の5.8%に相当する資金が支出された。
政府の債務残高は積み上がっているが、今のところは金利が低く、元利返済の負担は小さい。
一般の国民のムードはすでに変わっている。英国民はかつて、怠け者が福祉国家にたかっているという不満を口にしていたが、今日では、本当にケチケチした支援しかしてくれないとぼやく可能性の方が高い。
欧州で昨年行われた世論調査では、すべての成人に無条件に現金を繰り返し支給する制度「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」を支持するとの回答が、全体の3分の2以上を占めた。
裕福な専門職の人々は、食事の宅配や病人の看護に携わる人々の労働条件に目を見張った。子供やお年寄りを介護するために仕事を辞めた女性の苦労を無視することは、もうできなくなっている。