クラシックファッション界の巨匠、赤峰幸生さんに若者たちはなぜ惹かれるのか?

文=中野香織

1944年東京都生まれ。1960年代から様々なメンズブランドの企画を手がけ、1990年に自身の会社「インコントロ」を設立。現在はオーダースーツのブランド〝アカミネロイヤルライン〟を運営するほか、様々なアパレル企業のコンサルティングを手がけている。通称「マエストロ赤峰」。撮影はすべて山下英介

ファッション誌を読まなくなった20代の「お手本」は?

 ファッション雑誌が売れないと言われてずいぶん経つ。世の中全体、とりわけ若い人がファッションにさほど重きを置かなくなっているのだという言説も流通している。

 一部ではそうかもしれない。実際、悲しいことにアパレル不況を伝えるニュースには事欠かない。

 しかし、若い人たちすべてがファッションに興味がなくなっているかといえば、そうでもない。セコンドハンドやヴィンテージを扱う下北沢の賑わいは何なのだ。新しい服よりもむしろ、古い服に熱中している若い人が増えているのではないか。実際、おしゃれだな、と思った学生や美容師らに服のブランド名を聞くと、「古着なんです」という答えが返ってくることが増えた。

 ファッション雑誌は広告主ありきなので、広告主が売りたい新商品ばかりを掲載する。見込み読者が「新しい」服飾品に興味がなければ、当然、彼らが雑誌を買うこともない、というわけである。

 「新しい服」に興味が薄れた若い人たちがファッション誌を必要としなくなったとすれば、着こなしのお手本は誰なのだろうか? インスタグラマー? ファッション業界人や同世代のタレント? あるいは自分流? 

 お手本がいない場合もあれば、いたとしても「友人」や「ショップ店主」など彼らの答えは多様なのだが、しばらく調査を続けるうちに、当初、予想もつかなかった意外な人物が浮上してきた。

赤峰幸生さん(77)である。

7年ほど前に、都心にあった「インコントロ」のオフィスを、緑豊かな郊外の田園地帯に移転。「めだか荘」と名付けた一軒家で日々服飾文化の研究に勤しんでいる赤峰さんのもとには、ファッション業界の大物から洋服に興味を持ち始めた高校生まで、毎日様々な客が訪れる

クラシックファッションのマエストロ

 メンズクラシックスタイルの領域においては、すでに「巨匠」として、日本のみならず、イタリアでも一目おかれている服飾文化研究家である。数々のメンズブランドの企画を手掛け、現在は「インコントロ」代表として、神奈川県の梶が谷にある自身のオフィス「めだか荘」で、オーダースーツのビジネスも手掛けている。

 そのようなキャリアをもつ専門家であるから、当然、クラシックスーツの着こなしの模範を見せてくれる。

 とはいえ、赤峰さんは77歳である。年齢で人を判断するつもりは毛頭ないが、20代の男子にとっては、年齢的に祖父のような存在であることには違いない。だが、めだか荘には、赤峰さんから教えを乞うために20代、30代の「弟子」が何人も出入りするのだ。ちなみに、インスタグラムのフォロワーは3万4千人。スーツスタイルのバリエーションを纏う赤峰さん自身の写真が投稿されるだけだが、若い男性が熱心に追っている。

 毎日自身の着こなしを掲載しているインスタグラム。そのフォロワー数は驚きの3万4000人!
〝アカミネロイヤルライン〟と〝アカミネ クラス スポーツ〟のオーダー会を、「阪急メンズ東京(3月6~7日)」と「博多阪急(3月20~21日)」にて開催予定。詳細はインコントロ(Tel 044-871-5330)にお問い合わせを。