(英フィナンシャル・タイムズ紙 2021年2月22日付)

3万円を突破した日経平均(2月16日、写真:つのだよしお/アフロ)

 1989年には、銘柄選別について天与の運命を持っていると主張し、株に関する降霊術の会を開き、魔法のガマガエルの像からの助言を伝えた大阪の料亭の女将が、日本で最も成功し、最も大きな影響力を持つ個人投資家だった。

 当時59歳で、資産ポートフォリオが数十億ドルにも膨らみ、後に詐欺罪で有罪になった時には取引先の銀行2行が他社との合併を余儀なくされた尾上縫の歴史は長年、大きな教訓になってきた。

 それも尾上と仲間の詐欺師があまりにどぎつかったからだけでなく、バブル時代の狂った背景にごく自然に溶け込んでいたからだ。

 日本は今も、正真正銘の鼻息荒い投資熱が国を包み込んだ時に一体どんなふうに見えるかを覚えている人たちの記憶によって傷ついている。

もう二度と回復できないと思えた水準

 S&P500種株価指数やナスダックなど米国の代表的な株価指数が史上最高値で売買されるなかで、日経平均株価が2月半ばに1990年以来初めて3万円の大台を突破した光景が、新しい時代と古い時代の両方に突入する冒険のように感じられたのは、このためだ。

 バブル崩壊後の30年間で形成されてきた日本の個人投資家に関する想定は、突如、もはや通用しなくなるのかもしれない。

 指数の構成が一握りの企業に法外な比重を与えている日経平均は今、2020年3月に付けた新型コロナウイルスのパンデミック中の安値から78%上昇している。

 プロの投資家からは、多少冷笑を込めた目を向けられている。

 だが、日本のバブルの分析で鳴らすベテラン投資家のピーター・タスカ氏は、市場の物語と心理を定めるうえで日経平均が果たす役割は依然、とてつもなく大きいと言う。

 3万円の大台を突破した今も、日経平均はまだ1989年12月29日に付けた史上最高値を30%近く下回っており、PER(株価収益率)も当時より圧倒的に低い。

 だが、1990年の歴史的な響きは強烈で、3万円台という高値は過去30年間で一度たりとも回復可能だとは到底思えなかった水準だ。