「パラサイト 半地下の家族」アカデミー賞作品賞受賞を知らせるテレビを見る人びと(2020年2月10日、写真:ロイター/アフロ)

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 わたしは韓国に対していささか偏見を持っている。はっきりいえば、好きではない。が、この偏見の骨格は、マスコミで報道される韓国のイメージによって作られたものである。

 韓国民が全員「反日が生きがい」という人ばかりではあるまい、とわたしも頭ではわかっている。だからこの偏見を訂正しようと努力しないのはわたしの責任である。そしてわたしは偏見を訂正することはなかった。

 2003年、「冬のソナタ」が日本のおばさんの間で爆発的に人気となり、それ以来韓流ブームが高まった。佐野洋子もその一人で、韓国のテレビドラマのDVDを借りまくり、日本のおばさんたちはさびしいのよ、とわけのわからないことをいっていた。

 韓国旅行がブームとなったり、韓国の男優が続々来日するようになったりした。だがわたしには、だれがだれかもわからないし、そもそも知る気がない。

 当然、韓国のテレビドラマも韓国映画も、どうせ大したものじゃあるまいと無視した。1968年、金日成暗殺のために創設された暗殺部隊を描いた実話「シルミド」(2004、以下日本公開年)を見たのが唯一の例外である。こんな事実があったのかと鮮烈な印象があったが、なんだか一本調子だなと、それ以上関心が広がることはなかった。

「パラサイト」をきっかけに21本

 ところが、ポン・ジュノ監督の「パラサイト 半地下の家族」(2019)が2020年度アメリカのアカデミー賞で、外国語作品賞ではなく、作品賞を受賞したのである。それがあまりにも評判が高かったので、一体どういったものかと昨年末、気まぐれにDVDで見たのである。その結果、これが発想も展開もこれまでの邦画や洋画にもなかったもので、想像以上におもしろかったのだ。アメリカ人も毒気にあてられたのだろう。不覚にも、わたしもちょっと驚いたのである。

「グエムル 漢江の怪物」

 これは思っていたのとは全然ちがうぞと、おなじ監督の「グエムル 漢江の怪物」(2006)も見てみた。これはまた「パラサイト」とはまったくちがい、漢江に中型の恐竜魚みたいな怪物が出現するのである。米軍駐留の実態を風刺したという見方もあるようだが、この怪物の姿かたちといい、発想といい、まあ笑ってしまうほどよくできている。すごい才能ではないか。韓国映画を舐めすぎていた。まことに申し訳ないことである。

「過ちては改むるに憚ること勿れ」。いったん自分がまちがっていたと思えば、素直にそのことを認めるわたしは、一気に韓国映画を解禁し、今年に入って2カ月足らずのうちにまとめて21本の作品を見た(もっぱら社会派映画、犯罪映画、戦争映画ばかりで、恋愛映画は好きでないから除外)。