ゲームソフト小売りチェーン「GameStop」(写真:ロイター/アフロ)

(黒木亮・作家)

 1月下旬、ニューヨーク株式市場で未曾有の事件が起こった。

 SNS「レディット」の人気掲示板「ウォールストリートベッツ」に参加している個人投資家が大挙してビデオゲーム小売りチェーンの「ゲームストップ」(本社テキサス州、ニューヨーク証券取引所上場)の株を買って価格を暴騰させ、同社株をカラ売りしていたニューヨークの大手ヘッジファンド、メルビン・キャピタルが推定で45億ドル(約4759億円)もの損失をこうむったのだ。

マージン・コールに踏み上げという罠

 メルビン・キャピタルが巨額の損失をこうむったのは、カラ売りにともなうマージン・コール(追加証拠金差し入れ義務)に耐えられず、市場から高値で株を買い戻し、ポジションを手仕舞うしかなかったからと考えられる。

 これはFRB(米連邦準備制度理事会)の規則で、カラ売り実行時には、カラ売りした額の150パーセントの証拠金差し入れが義務付けられており、その後も100パーセント程度の証拠金を維持しなくてはならないからだ。個人投資家の買いで、ゲームストップ株が約26倍に暴騰したため、必要な証拠金の額も26倍に膨れ上がったのである。

 さらに他のカラ売り勢もあわてて市場から株を買い戻し、手仕舞いに走ったので、その買いがさらに価格を押し上げる「踏み上げ」という現象が起き、ますますカラ売り勢を締め上げる「ショート・スクイーズ」状態となった。