TPP11への加盟を申し入れたジョンソン首相率いる英国(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 2月1日、TPP11への参加を申し入れた英国。あわせて、米国、日本、インド、オーストラリアの4カ国で形成する、中国を仮想敵だと意識した安全保障面での緩やかな連携であるQUADへの参加と、G7にオーストラリア、インド、韓国を加えた「D10」の設立についても言及している。アジア回帰を目論む英国の意図は何か。それは対中強硬策を意味するのか。

 欧州連合(EU)離脱(2020年1月31日)からちょうど1年後である2月1日、そして、合意ある離脱確定日(2020年12月30日)から1カ月後、英国のトラス国際貿易相は正式に、米国抜きの11カ国によるCPTPP(Comprehensive and Progressive Agreement for TPP<包括的進歩的TPP>:いわゆるTPP11)への参加を申し入れた。

 現在の英国からTPP加盟国への輸出は同国全体の8%に過ぎないものの、TPP11カ国は5億人の人口と世界の13.5%の経済を占めるうえに、EUよりも高い成長性を見込める。そのため、関税が引き下げられた後の英国への経済効果は非常に大きい、というのがジョンソン政権の皮算用である。

 英国は、2020年1月の離脱決定前の段階で既にTPP加盟国への根回しを始めており、日本とは10月23日に自由貿易協定に正式署名、他のTPP加盟10カ国とも加盟実現のための合意に概ね達している模様である。つまり今回の正式申請は実質的には加盟決定までの準備を整えてのことだったと言える。英国政府関係者は加盟決定について楽観的な見方をしている。

 一方、野党労働党の「影の内閣」のソーンベリー国際貿易相は、「一つの団体から地球の反対側にある別の団体に急ぎ乗り換えることのメリットが不確実だ」と批判し、「トラス国際貿易相は、英国加盟後に中国が申請してきた場合、英国は拒否権を持てるかどうかも確実にしていない」と辛らつだ。

 この間、米国がトランプ政権からバイデン政権に移行したことで、世界は米国の内政と経済政策を注視しているものの、それ以上に、対中政策がどうなるかを最重要課題として見ている。安全保障のみならず、経済的利益にも大きな影響を与えるからだ。英国とて、ソーンベリー影の内閣国際貿易相の言葉が示す通り、アジアと言って念頭に浮かぶのは中国が最初だろう。

 英国のCPTPP加盟を含む、アジア・オセアニアへのピボット戦略は、今後、果たしてどのような展開になっていくのだろうか。「グローバル・ブリテン構想」はこのピボット戦略の成功あっての賜物である。