(英エコノミスト誌 2021年1月30日号)

共和党に投票した有権者の大半がまだドナルド・トランプ氏を崇めている。一つには、選挙での敗北を信じていないためだ。
ドナルド・トランプ氏に絶大なる信を置く「Qアノン」の陰謀論者たちにとっては、何ともばつの悪い瞬間だった。
大統領就任式の日が到来したものの、悪魔を崇拝する民主党の小児性愛者の大量処刑が行われなかった。
100万人あまりのQアノン信奉者が「ザ・ストーム(大嵐)」と呼んで待ち望んでいたイベントは、にわか雨でしかなかった。
従って、大量処刑後にトランプ氏を称える「大覚醒」もなかった。
SNSから排除されるQアノン
「計画も、『Q』も、何もなかった」。
ある信奉者は、この陰謀論の影の預言者でトランプ氏の側近の一人だと思われている人物に言及しつつ、仲間が押し寄せたメッセージング・プラットフォーム「テレグラム」にそんな不満を書き込んだ。
彼らがテレグラムに殺到したのは、Qアノンの陰謀論者たちが連邦議会議事堂襲撃の先導に手を貸したことを受けて、ツイッターとフェイスブックから追放された後のことだ。
両社は事件後、数万件のアカウントを凍結している。米連邦捜査局(FBI)は「Qアノン・シャーマン」を名乗るジェイコブ・チャンズリー氏をはじめ、暴動に加わったと目される人物を何人も逮捕した。
Qアノンの主導者の一人であるロン・ワトキンス氏――日本を本拠地とする陰謀論者で、「Q」が書いたとされる暗号めいたメッセージが投稿されたオンライン掲示板「8chan」の管理人だった人物――は万策尽きたことを認め、千年王国説の信者らしからぬ調子で「我々は全力を尽くした」とテレグラムに書き込んだ。
一部の研究者の間では、陰謀論をあおった「Q」のメッセージを書いていたのはこのワトキンス氏と、かつて空軍に所属した元ポルノ作家で、マニラ郊外で養豚場を営んだこともある父親だと考えられている。
もっと成功している陰謀論者で、「インフォウォーズ」というウエブサイトを活動拠点にしているアレックス・ジョーンズ氏も、自分がかつて拡散を手伝ったこのナンセンスな話を攻撃し始め、Qアノンは「男女の魔法使い」の一味だとからかった。