トレーニングを続けるトップ経営者が増えている。その理由は単なる健康や体格維持だけではない。ビジネスをするうえで必要なスキルが促されることにあるーーそう指摘するのは、五輪メダリストからEXILEら有名アーティストそしてトップ経営者までをも指導してきたフィジカルトレーナー・吉田輝幸氏だ。氏の新刊『6つの力を養い、理想の働き方を叶えるトレーニング』から、そのヒントをご紹介する。

トレーニングをめぐる状況が進化

 10年ほど前、企業の経営エグゼクティブが筋トレなどのトレーニングを習慣にして熱心に取り組んでいるという話は、確かに多くの人にとって驚くべきトピックでした。

 それまで人々が漠然と抱いていた、「経営者」や「社長」といった存在へのステレオタイプなイメージや先入観──恰幅がよく豪快で、健康意識云々が取り沙汰されることはあまりなく、経営手腕や実績、その次程度に人柄などが注目される……といったもの──を大きく変えるあり方への驚きと、「なぜトレーニングをするのか?」という疑問や関心を湧かせるに十分なニュース性があったかと思います。

 それが、もはや今ではそうした話は聞き覚えのある範疇となり、どこの誰が筋トレをしている、あの社長もか、と名前を羅列するようなことには新鮮味もなくなっていて、あまり意味がないようにも感じます。

 それくらい、ビジネスの先端を走るリーダーたちが自分の身体に向き合い、鍛えることをセルフマネジメントの一環としていたり、あるいはより能動的に、能力を底上げする有効手段として取り入れているというのは当たり前の情報となり、広く浸透しています。

 世間を見渡しても、健康意識の高まりや、パーソナルトレーニング、加圧トレーニングなどのブーム、ランニングブームも起こり、多くの人にとってトレーニングは以前よりずっと身近なものになっています。これには実際、著名なエリートや経営者たちの影響も大きかったはずで、そうした話題からトレーニングに興味を持った人も少なくないでしょう。

 エリートたちに実感させた、トレーニングの効果に関する科学的な解明も進んでいます。そのなかには、健康や病に関して、長年の常識を覆すようなものもあります。

 たとえば、運動して筋肉が収縮すると、インスリンとはまったく別のメカニズムが働いて血液中の糖を消費していること、それによって糖尿病の治療や予防に大きな効果があることが明らかになっています。さらに、これまで内臓などの臓器だけがつくり出せるとされていたホルモンが、10種類も筋肉によってつくり出されているということも。この研究には内閣府も注目し、「最先端・次世代研究開発支援プログラム」に選定しています。