(英エコノミスト誌 2021年1月30日号)

過大な要求をしなければ、ジョー・バイデン新大統領の影響力は大きくなる。
米国の利益にとってアジアほど重要な地域はなく、米国が手を引くことによって失われるものがアジアほど大きい地域もない。
第2次世界大戦で日本を破って以来、米国はアジアの安全保障のみならず、貿易と比較的開かれた市場を土台にした目覚ましい繁栄も支えてきた。それゆえ、この地域における米国の地位は高くなって然るべきだ。
ところが、ドナルド・トランプ前大統領の4年間がその地位に打撃を与えた。
さらには、この地域における国際秩序の維持を米国に任せておいてよいのだろうかという疑問までも、アジアの一部の人々に抱かせてしまった。
トランプ陣営は一つの重要な問題を理解していた。権威主義的な中国は西太平洋における米国の覇権のみならず、米国がずっと支えてきた経済秩序にも直接脅威をもたらしているという問題だ。
これについては良い知らせがある。
中国が南シナ海で見せている強引な振る舞い、ヒマラヤ山脈でのインド領の蚕食、台湾に対するけんか腰な態度、新疆ウイグル自治区と香港での弾圧、自国市場開放に消極的な姿勢、開発援助をひも付きにする慣行などを背景に、中国の周りには中国の軍事・経済支配を望む国が一つもないのだ。
悪い知らせもある。
米国で新政権が誕生したとはいえ、中国の影響力の拡大と米国の地位の低下を考えると、現状打破を試みるようアジア諸国を説得するのは困難だというのがそれだ。
実際、その説得を成功させるコツは、ジョー・バイデン新大統領がアジア諸国に対し、公然と中国側を敵に回して米国の味方に付くよう求めたりせずに米国への信頼を回復させることだ。