これは地方の小さな「弁当屋」を大手コンビニチェーンに弁当を供給する一大産業に育てた男の物語である。登場人物は仮名だが、ストーリーは事実に基づいている(毎週月曜日連載中)

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平成18年:59歳

 柳本マネージャーの来社の翌日、事業継承挨拶のため、千葉県の石野食品本社を訪問。

 一番の懸案事項であった出向社員の派遣期間について質問したところ、「そのような話しは、一切していない。3月以降、ビタ一文経費は発生しない約束だ」との木で鼻を括ったような回答に、恭平は戸惑いを覚えた。

 翌日、日本惣菜食品協同組合理事会前に、恭平は何人かの理事から声を掛けられた。

「よくアイフィールド・デリなんか引き受けたな。まあ、お手並み拝見させてもらうよ…」

「余程いい条件を出されたのだろう。ウチだったら、絶対引き受けないけれど…」

 理事会後、権田原常務と2人だけの席の冒頭、理事たちの冷淡な反応を伝えた。

「な~に、誰もが本心は自分がやりたかったから、羨んでいるのだよ…」

 噛み合わぬ双方の見解に置いてきぼり喰ったような疎外感を覚えながら、昨日の石野食品との会談に基づき、石野食品からの出向社員の派遣期間や経費負担について質した。

「引継期間を無償とするのは、やはり1か月が限度だろう。それ以降は実費を支払うのが常識的な線だろう…」

 権田原常務の説明は明らかに10日前から変節し、大きくトーンダウンしていた。

「最初の話と、条件が全然違うじゃないですか。それなら、弊社への移管は3月ではなく、4月からにしていただきたい。そもそもお話を頂戴してから3週間足らずでの営業移管には、無理がありますよ」

 恭平は色をなして反論した。

「じゃあ、この話は白紙に戻すかい…」

 開き直った常務の詰問に恭平は絶句し、やはり断るべきかと真剣に悩み天井を見上げた。

 恭平の表情を窺った常務は、途端に柔らかな口調に変え、ゆっくりと説得し始めた。