陸揚げされたセウォル号。高校生ら多数の犠牲者を出した(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 韓国の政界は、まさに血も涙もない戦場だ。政権が変わると、その政権や大統領に群がる“忠犬”たちは利益を得ることに余念がない。文在寅政府の発足以降、左翼勢力と追従者らは法律を無視、あるいは軽視し、統治者の誤りを庇う先頭に立っている。そんな中にあって、進歩派のジャーナリストの金於俊(キム・オジュン)氏は、他の忠犬と比べて独特である。

 金於俊氏は、自らを「総帥」と呼んでいる。自身が設立したインターネットメディアの「タンジ日報」の総帥として知られる金於俊氏は、インターネットにおける政治論客の中で、いまだ活躍する数少ない人物の一人だ。

 1998年、朝鮮日報や東亜日報、中央日報といった大手メディアの問題点を指摘して始まったタンジ日報は、一時、資産価値が800億ウォン(75億円)まで膨れ上がった。既存メディアではなく、韓国のITブームで成長したインターネットメディアの走りである。

 初期のタンジ日報は、徹底した中立性で様々な意見を出していた。当時の韓国では進歩、保守、左翼、右翼の区分が明確ではなかったとはいえ、今の進歩主義的な傾向からは想像できないほど、金大中(キム・デジュン)元大統領と金泳三(キム・ヨンサム)元大統領に対する痛快な批判を展開していた。

 報道だけでなく、様々なインターネット・コンテンツでも人気を集めた。旅行やレジャー関連の商品を販売し、コンドームをはじめとする自社開発商品や輸入した成人用品なども販売している。

 しかし、2000年代序盤、タンジ日報は深刻な経営難に落ち込んだ。当時、タンジ日報と総帥の金於俊氏は、給与未払い問題で幾度も裁判を受けた。 タンジ日報を辞めた人の大半が訴訟を起こしており、裁判の一部は、インターネットで容易に見つけることができるほどだ。

 タンジ日報と金於俊氏は、これまでに様々な社会事象で常識とは異なる発言を展開してきた。代表的な例に、天安艦被撃事件、狂牛病扇動事件、セウォル号沈没事件がある。

 最近、映画化されて44億ウォンの売り上げを記録したセウォル号沈没事件で、金於俊氏は根拠のない陰謀論を唱えて批判を浴びた(日本語のタイトルは「その日、海」)。金於俊氏は「航跡操作疑惑」を提起したが、調査団と海外調査会社、民間船舶による分析や事故調査委員会の発表とは異なる。それでも、金於俊は、朴槿恵政府がセウォル号を故意に沈没させたと主張した。

 セウォル号事件は朴槿恵の弾劾事由の一つに上げられた。この事件を利用して政権を獲得した文在寅の忠実な手先の役目を果たしたのだった。