医療崩壊が声高に叫ばれる一方で新型コロナウイルス感染症に対応できない医療機関が多数存在する

 新型コロナウイルス感染症(Covid-19)が「感染症2類相当」とされたため、患者に対処する病院が公的病院や非営利病院に限定され、患者の治療に当たる医師や看護師の献身的な対処にもかかわらず人手不足の状況に直面した。

 この限定された〝現場″が「医療崩壊」と言われる状況に直面してきたわけであるが、現実にはざっくり言って〝コロナに対処していない″民間病院が数多く存在する。

 テレビのモーニングショーなどは混乱の現場〝のみ″を捉えて報道し、「日本はいま医療崩壊の状況にある」と囃し立て、高い視聴率を稼いできた。

 国民は「医療崩壊」を〝自分の死″と直結して受け止め、そこに関心を全集中させてきた。そのために、マスコミなどが恣意的に遮断して報道しない「その他」の状況には思いが至らなかった。

 しかし、発症から1年が過ぎようとする頃から、良心的かつ勇気ある医師の間から疑問の声が聞かれるようになり、冷静さを取り戻して現実を眺めることができる状況になってきた。

 そこに見えるのは、感染症の分類だけでなく、政府や地方自治体に欠落した正しい情報の発信、病院内および病院間の想定外を含めた非常事態対応の不備などである。

 新型コロナウイルス感染症を「感染症2類相当」に分類しているため柔軟性が殺がれている状況については、「日本の『医療崩壊』は偽善の政治的産物? 強制・罰則より医療資源の十分な活用が先だ」(https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/63737)で言及した。

 ここでは、憲法における緊急事態条項の欠落がもたらす問題点、正しい情報と政府・地方自治体の対処、日本医師会のありよう、そして安易に災害派遣要請される自衛隊について論考する。

憲法に緊急事態条項がないばかりに

 憲法は国の成立に係る統治の根本規範となる基本的な原理原則を定めた法規範とされる。

 ここで人権の尊重や教育の平等が謳われると、関連法規が整備され、普段の言動においてもそうした施策が講じられなければならない。

 ところが国家の非常事態に必要な「緊急事態」条項が憲法にないために、国家のあらゆるレベルにおいて緊急事態を想定した法規類が未整備である。

 当然ながら、そうした法規に基づく普段の訓練や演習なども実施されていない。

 今回のコロナに即していえば、診療科間や病院間の相互連携、さらには自治体間の協力、すなわち菅義偉首相がいうところの「自助」「共助」がほとんど機能せず、一気に政府と自治体の関係という「公助」に解決策を見出そうとした感が強い。

 欧米諸国が新型コロナウイルスによる感染者や死者を日本の何十倍も何百倍も出しながら医療崩壊に至っていないのは、非常事態を見据えた体・態勢を整備していたからだとされる。

 他方、ベッド数やICUなど世界一の医療資源を有する日本でありながら、コロナ問題が起きた直後から1年を過ぎた今日に至るまで毎日のように「医療崩壊」が叫ばれ続け、社会・経済活動には大きな制約がかかっている。