(吉田 典史:ジャーナリスト)

 昨年(2020年)10月にJBpressで「求人増でも厳しい条件、シニアの転職は甘くない!」という記事を執筆した。その際、そもそもこの世代の人に転職は本当に可能なのか、と思えてならなかった。特に部下のいない管理職だ。部下のいない管理職は中高年(ここでは40歳~60歳とする)やシニアの戦力化や転職を考えるうえで外せない。ある意味で、日本企業の人事のあり方の象徴と言える。

 通常、管理職には部下がいる。例えば、大企業の場合、部長の下に課長、その下に一般職(非管理職)が数人から10人前後はいるだろう。ところが、一部の大企業では部下のいない管理職がいる。

 特に銀行、生損保、自動車や家電、造船、建築、飲料水などのメーカー、電機やガスなどの公益企業、商社、新聞社、テレビ局で目立つ。部長、副部長、部長代理、次長、課長代理と名乗るが、部下がいない。おのずと管理や育成といったマネジメントをしない。例えば、部長代理として部長や課長を補佐する立場だが、実際は現場の人、つまり、プレイヤーとして仕事をしている。

 部下のいない管理職は、部下のいる管理職、つまり、ラインの管理職とは社内での扱いは多少異なり、「非ラインの管理職」と呼ばれる。例えば、部下がいる管理職よりは基本給や賞与は少ないが、管理職手当はつく。一般職(非管理職)よりは確実に多い。本来、これは総額人件費の厳密な管理の観点から「そもそも、この管理職は必要なのか」と検証されるべきだと思う。

 ところが、一部の大企業はこの内情を覆い隠そうとする傾向がある。おそらく、株主をはじめとした利害関係者への配慮から、総額人件費のずさんな管理を公にされたくないからだろう。

 例えば、筆者の取材では、企業の広報担当者がこう言う時がある。「“非ラインの管理職”といった言葉を記事に書かないでもらいたい。“管理職”と表現していただきたい。“部下がいる、いない”を盛り込まないでください」。

 非ラインとラインの管理職を1つに括り、双方の区別がつかないようにするか、もしくは部下のいない管理職の存在そのものを見えなくしたいのだろうか。中高年の戦力化を考えるうえで「本丸」の存在でありながら、それが公にされない。そこに筆者は問題意識を持っている。