(英エコノミスト誌 2021年1月23日号)

1月17日、モスクワの空港に到着したアレクセイ・ナワリヌイ氏と妻のユリアさん(写真:AP/アフロ)

反体制派指導者のアレクセイ・ナワリヌイ氏は、モスクワに戻るや否や、勾留された。

 1月17日午後8時30分。アレクセイ・ナワリヌイ氏と妻のユリアさんが、モスクワのシェレメーチエヴォ空港の到着ターミナルを大股で歩いていく。ジャーナリストの一団が離されまいとついて行く。

 ナワリヌイ氏は色鮮やかなクレムリンのポスターが壁に貼られているのに気づき、その前で歩みを止めた。いくつものカメラからシャッター音が鳴り響く。

「私は恐れない・・・この5カ月間で今日が一番幸せだ」。ナワリヌイ氏はこう明言した。「私は帰ってきた」。

暗殺未遂を生き延び、祖国へ

 これが、ナワリヌイ氏がロシアの地に戻って最初に公にした言葉だった(同氏はこの5カ月前、猛毒の神経剤「ノビチョク」のために昏睡状態に陥り、ドイツに逃れて治療を受けていた)。

 この直後、入国審査の窓口で黒色の制服の警官たちに身柄を拘束され、どこか分からない場所へ連行された。

 ユリアさんは夫をハグしてキスし、頬についた自分の口紅を拭った。次はいつ会えるのか、そもそも会うことができるのかも分からないまま。

 数時間後、ジャーナリストらのカメラから遠く離れたところで、ナワリヌイ氏は警察署に移送された。翌日には、間に合わせの法廷で裁判に立たされた。そして次のように述べた。

「司法のまがい物は数多く見てきたが、今回は(ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は)隠れ家にいてかなり怖がっているから、ロシアの刑法典をあからさまにビリビリと破り、ゴミ箱に捨てた」

 短時間の聴聞を経て、裁判所は30日間の勾留を言い渡した。暗殺未遂による体調悪化からの回復をドイツで目指している間に仮釈放の取り決めに違反した、というのがその理由だった。

 この勾留が明ける前の2月2日に、ナワリヌイ氏は再び法廷に立たされる予定だ。

 その時は恐らく、以前下された執行猶予判決が禁錮3年半の実刑に切り替えられることになるだろう。

 罪名は横領罪だが、でっち上げだと広く考えられている。ナワリヌイ氏の真の罪は、ロシアの国家保安機関の行動を暴いたことと、祖国に帰ってきたことだ。