太平洋上の空母セオドア・ルーズベルトから発艦準備するF-18戦闘機(1月20日撮影、米海軍のサイトより)

中国は静かに、強圧的に相手国を弱体化

 ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC)の極秘メモランダムが解禁になった。

 作成されたのは2018年2月。通常は作成後30年後に解禁されるが今回は3年後だった。

 タイトルは「U. S. STRATEGIC FRAMEWORK FOR THE INDO-PACIFIC(インド太平洋における米国の戦略的枠組み)」。

 トランプ政権でNSCのアジア上級部長を務めたマシュー・ポティンガー氏(大統領国家安全保障担当副補佐官)が作成した。

 ポティンガー氏はウォールストリート・ジャーナルの北京特派員を経て米海兵隊に入隊、情報将校としてイラク戦争に参戦した異色の経歴を持つ。

 NSCでのボスはH・R・マクマスター大統領補佐官(退役陸軍中将)だった。2020年12月、上梓した新著では中国の「世界制覇の野心」について警鐘を鳴らしている。

 同メモはおそらく、膨大なメモランダムの中からポティンガー氏がこの部分だけを抜き取り、意図的に解禁したものと思われる。

 むろん、厳しい審査を経たのち、(建前では)トランプ大統領(当時)が解禁を許可したものだ。

 同メモで力点が置かれているのは台頭する「中国の脅威」だ。

「中国は、静かにまた時として強圧的に影響力を行使、硬軟両様を織り交ぜながら相手国の主権の弱体化を目論んでいる」

「米国も同盟国、パートナーも中国の野望に対する抵抗力を持たねばならない」

 そのためには「インド太平洋戦略構想」が不可欠だというコンセプトで書かれている。

 全10ページのうち14か所が黒く塗りつぶされている。

「(この部分は)おそらく中国と北朝鮮、韓国に関するセンシティブな記述のようだ」(米政府元高官)

 作成後3年でなぜ解禁されたのか。しかもトランプ政権からバイデン政権に移行する直前に・・・。

 一義的には、トランプ政権が幕を閉じる前に、これだけは公にし、バイデン政権にも受け継いでもらおうという政治的思惑がある。引継ぎ事項だ。

 そのことを米国民にも知らせておきたいということもある。むろん、中国に対するトランプ政権の「最後の脅し」といった軍事外交上のジェスチャーという面もある。

 返す刀で、同盟国にも米国の同構想に対する基本方針を今一度知らしめ、「バイデン政権もこのスタンスを受け継ぐぞ」と、ダメ押しする狙いもあったのだろう。

 しかし、メモの内容には、当該国である日本、オーストラリア、インド各国政府当局者も面食らっているはずだ。

 こうはっきりと米国のホンネが明かされては、身も蓋もない。各国政府には対世論、対議会対策という国内事情があるからだ。