会談した中国の王毅外相(左)とフィリピンのドゥテルテ大統領(2021年1月16日、写真:新華社/アフロ)

(北村 淳:軍事社会学者)

 1月13日、ジョージ・バイデン次期大統領(本コラム公開時には第46代大統領)がカート・キャンベル氏を国家安全保障会議(NSC)のインド太平洋地域総合調整官(Coordinator for the Indo-Pacific) に指名することが、明らかになった。このポストはバイデン新政権が新設するもので、日本や中国を含むインド太平洋地域の軍事・外交政策の司令塔の中心を担うことになる。

 キャンベル氏は民主党クリントン政権や同じくオバマ政権で対アジア安全保障政策立案と運用に関与し、とりわけオバマ政権下ではアジア太平洋担当国務次官補としてオバマ政権の「アジア基軸政策」の道筋を付けた。そして、対中国政策においてはいわゆる「取り込み政策」を推進した。

 米海軍などの対中強硬派は、オバマ政権の8年間で中国が南シナ海や東シナ海での軍事的優勢を大きく進展させてしまった大きな要因は、その「取り込み政策」にあると考えている。そのため、キャンベル氏がバイデン政権の対中軍時・外交政策の舵取りを任されたことにより、オバマ期の対中姿勢に逆戻りすることは確実であると大きな衝撃を受けている。

中国がフィリピンにワクチン攻勢

 すでに中国は、バイデン政権発足を睨んで南シナ海掌握のための動きを着々と進めている。中国の王毅外相は、ミャンマー、インドネシア、ブルネイを訪問し、新型コロナウイルス対策のインフラ整備への援助を約束するとともに、中国製ワクチンの寄付と供給を確約した。

 それら東南アジア諸国を歴訪した後、王毅外相は中国の南シナ制覇にとってベトナムとともに鍵となるフィリピンを訪問しドゥテルテ大統領と会談した。ドゥテルテ大統領と王毅外相は、現在直面しているパンデミックに打ち勝つには国際社会の連帯が最も重要であるとし、フィリピンでの感染拡大を抑制するために両国が密接に協力し合うことの意義を強調した。