インドネシアのジョコ・ウィドド大統領(写真:ロイター/アフロ)

 もしかするとこれをきっかけにインドネシア治安当局とイスラム急進派との大々的な衝突が発生することになるかもしれない。


 昨年12月、インドネシアのイスラム急進派「イスラム擁護戦線(FPI)」のメンバー6人が警察官に射殺されるという事件があった。この調査に当たっていた「国家人権委員会(Komnas HAM)」は1月17日までに、「射殺は警察官による人権侵害」とする報告書をまとめ、ジョコ・ウィドド大統領に提出した。

 ジョコ・ウィドド大統領はこの報告書を受けて、今後司法当局が適切に判断して真相解明を進めることに同意したとされる。つまり場合によっては、当初は「警察の正当防衛」とされていた事件の構図が、「警察官による市民への不法な射殺事件」というものにひっくり返る可能性も出てきたのだ。

警察は正当防衛を主張するも・・・

 事件のあらましはこうだ。2020年12月7日、FPIのカリスマ指導者であるリジック・シハブ容疑者(現在は警察により拘束中)の身辺警護を務めるメンバーらが、車で同容疑者の車列を追走していたところ、後方から接近した警察車両と接触、双方が下車して衝突した。

 この際、FPIのメンバー6人が警察官によって現場で射殺され、ジャカルタ首都圏警察は直後の会見で「武装したFPIメンバーが警察官を襲撃してきたためやむなく射殺した」として正当防衛を主張し、証拠としてFPIメンバーが所持していたとする刀や刃物、実弾、拳銃などをマスコミに公開していた。

 だが会見直後から6人射殺に関して、「無抵抗のメンバーへの見せしめの一方的な殺害ではないか」、「警察官の職務権限を越えた違法な殺人ではないか」との疑念が警察に向けられはじめる。FPIからも「殺害されたメンバーは全員が丸腰で武器の所持は警察によるでっちあげだ。無抵抗の市民への一方的な殺人である疑いがある」と、警察の会見内容を全面的に否定する声明が出され、最終的に国家機関である「人権委」が真相解明に乗り出す事態になっていたのだ。