ヴィス東京オフィス内のサロンスペース。ここで社員が働くことができるほか、来客スペースとしても利用される

「仕事場の居心地は社員の生産性や定着率に大きな影響を及ぼす」と考える経営幹部が増えている。ヴィスはそんな変化を日本で最も早い時期から捉え、オフィスデザインサービスを開始し、成功をおさめた企業だ。顧客は、NTTデータやアサヒビールといった大手から、freeeやビズリーチなど気鋭のベンチャーまで幅広い。デザインを提案すれば受注率は約7割と、同業他社と比べても随一だ。なぜヴィスは日本で最も早い2000年代前半にこの事業を始め、世の中の流れを変えることができたのか。(企業取材集団IZUMO)

社長室、応接室だけが綺麗なオフィスではいけない

 オフィスといえば、灰色の机が並び、奥に上司の席があり、壁面には社員の行き先が記されたホワイトボードやロッカーがある、といった常識があった。しかし、ヴィスがデザインしたオフィスは、冒頭の写真のように、古い定石を超えたものばかりだ。

 元々はこうではなかった。中村勇人社長が話す。

「たとえばある会社の社長を訪問した時、無機質なパーテーションで区切られた狭い部屋に通されたとします。訪問した側は『もしや歓迎されていないのでは?』とか『この社長は社内で大切にされていないのかな』と感じるかもしれません。だから大抵の会社は、応接室に豪華なテーブルやソファを置き、時には花や絵を飾っています。しかし企業の主人公は社員のはず。本来は、社員が仕事を楽しめるオフィスにすることも大切だったんです」

 ヴィスの創業は1998年。当初は飲食店やデパートなどの空間デザインを行っていた。しかし2003年、中村氏は運命を変える仕事に出会った。

 彼は苦笑しながら「その建物を見た瞬間、この仕事は断ろうと思いました」と話す。

「それくらい衝撃だったんです。税理士の先生に紹介され、物づくりをするオフィス兼工場に伺ったのですが、工場のトタンや金属製の扉には錆が浮き、どこから入っていいかわからないくらい小さな玄関に、手入れされていない植木があり、オフィスの中も工場から出る粉じんだらけでした」