知っている人間にはとても思い入れの深い国道16号線。写真は千葉県柏市(写真:a_text/イメージマート)

 国道16号線は、東京の中心部からほぼ30キロ外側にある全長約330キロの環状道路だ。スタートは三浦半島の付け根に位置する神奈川県横須賀市走水。東京湾に沿って北上し横浜を経て内陸部に入る。東京都(町田、八王子、福生)を抜けて埼玉県(入間、狭山、川越、さいたま、春日部)を過ぎたら、千葉県(野田、柏、千葉、市原)へ。到着した富津岬から東京湾越しに見えるのはスタート地点の横須賀だ。これで国道16号線をぐるりと一周したことになる。

 著者が注目したのは国道16号線そのものだけではなく、国道16号線が走る「地形」だ。この国道16号線エリアが旧石器時代から現代に至るまで日本の文明と文化、政治と経済を動かし続けてきた、という。『国道16号線 「日本」を創った道』(新潮社)を11月15日に上梓した柳瀬博一(やなせ・ひろいち)東京工業大学リベラルアーツ研究教育院教授に話を聞いた。(聞き手:竹添千尋 シード・プランニング研究員)

『国道16号線 「日本」を創った道』を上梓した柳瀬博一教授インタビュー

──「国道16号線は日本最強の郊外道路である」と書かれています。今回の新型コロナウイルスの影響により首都圏から郊外への人の流れは加速するでしょうか。

柳瀬博一氏(以下、柳瀬):既に様々なメディアで報道されているように、東京都心から流出する人の数が増えています。実際に八王子や町田、あるいは柏、少し内側に入りますが流山といった16号線沿いでは、新規に住宅を賃貸したり購入したりする人たちの数が増えています。

 ただ、これは新型コロナウイルス感染拡大前から起きている現象です。全年代で見ると、いわゆる都市集中が進んで23区の人口が増え、古くなってしまったベッドダウンやニュータウンでは人口が減っているという傾向がありました。その一方で、流山市や柏市、町田市、八王子市、日野市といった16号線エリアでは0歳~14歳の子どもの人口がここ数年ずっと増えています。子育て世代が積極的に首都圏郊外に住むようになっていたのです。

 近現代の人々は自分の住む場所を、勤務地からどれだけ離れているのか、通勤にかかる距離や時間を軸に考えてきました。丸の内や大手町、六本木など東京の中心部を山の頂上だとすると、不動産価格は頂上からの距離に比例してだんだん下がっていきます。我々はこのような、いわば「通勤至上主義」の価値が支配する世界でずっと生きてきました。

 ところが、今回の新型コロナウイルスの感染拡大に伴って、リモートワークをせざるを得なくなり、通勤しなければいけない日が減りました。今まで住まいを決める際の最も重要なファクターだった通勤時間そのものが消えてしまった時、多くの人々が「自分は一体どこに住みたいのだろうか」「住まいに求めるものは何なのか」と改めて考えるようになったはずです。

 通勤があるなしに関わらず、都心の繁華街の近くに住みたい人もいるでしょう。一方で、海辺や山、川が近いところ、スポーツ施設が充実しているところに住みたい人もいるでしょう。恐らく必ずしも全員が東京の中心から近いところに住みたいわけではなく、それぞれの人がそれぞれに住みたい場所がある。多様なニーズがあるはずなんです。その潜在的なニーズが、コロナによるリモートワークによって通勤そのものがなくなったり減ったりした時に顕在化しました。