(英フィナンシャル・タイムズ紙 2021年1月12日付)

極右活動家の群衆が警察の非常線を強行突破する。歓声を上げ、旗を振り回しながら、議会に襲い掛かる準備をする。
米ワシントンでは先週、暴徒が議会に乱入した。
独ベルリンでは昨年8月、ライヒスターク(国会議事堂)前の階段で阻止された。
もしデモ隊が建物に突入していたら、ライヒスタークが1945年にロシア軍によって破壊された時から慎重に保全されている落書きがまだ残る別の壁を見つけたはずだ。
トランプのような人物こそいないが・・・
昨年夏のドイツのニアミス、フランスの「ジレ・ジョーヌ(黄色いベスト)」デモ、そしてブレグジット(英国の欧州連合=EU=離脱)と新型コロナウイルスによって英国で沸き起こる熱意――。
これらすべてが同じポイントを浮き彫りにしている。
ヨーロッパ人は、米国をのみ込んだ政治的情熱に影響されないと想定することはできない。米国を揺るがした要素の多くは欧州にも存在する。
特に顕著なのが、陰謀論の広まり、オンライン上での思想の先鋭化、過激派の政治運動だ。
欧州に欠けている決定的な要素は、ドナルド・トランプだ。
米国の最高陰謀論者が大統領でもあるという事実は、米国の状況を比類なく危険なものにする。
全米各地のいかれた連中に発破をかけ、首都に押しかけ、議会を襲うよう促したのは、大統領選挙の結果を覆そうとするトランプ大統領の努力だった。
だが、欧州の人々が、トランプ的人物がいないために欧州は危険な政情不安を免れると考えるのは間違いだ。
コロナ禍が招いた経済的な苦痛と社会的な混乱を考えると、特にそうだ。