(英エコノミスト誌 2021年1月9日号)

逮捕の「容疑」は、議会選挙で過半数を獲得して行政長官を辞任に追い込もうとしたことだ。
中国が昨年6月に香港に設けた香港国家安全維持法(国安法)の狙いは、その支持者の一部が以前主張したところによれば、実力行使よりも威嚇の方を多用することにあった。
国家分裂の扇動や外国勢力との結託などを犯罪と見なす同法の施行後数カ月間における逮捕者はわずか35人で、起訴も4人にとどまっていた。
1月6日になると、状況が激変した。
夜明け前に1000人近い警察官が香港中に散らばって72カ所を捜索し、民主派の政治家や活動家など計53人を逮捕したのだ。政権転覆を謀ったというのがその容疑だった。
予備選への関与が転覆罪?
一斉検挙されたのは、昨年9月に予定されていた立法会(議会に相当、総数70議席)選挙の候補者を選抜する非公式の「予備選挙」に出馬したり、出馬を手助けしたりしていた人々だった。
学者で有力な民主活動家の戴耀廷(ベニー・タイ)氏、2019~20年に香港を揺るがした大規模デモを何度か組織した岑敖暉(レスター・シュム)氏と岑子杰(ジミー・シャム)氏、著名な元立法会議員の朱凱迪(エディー・チュー)、涂謹申(ジェイムズ・トゥー)、楊岳橋(アルビン・ユン)の3氏などがその主なところだ。
また障害者の支援活動に取り組んでいる李芝融(リー・チ・ユン)氏、ソーシャルワーカーのジェフリー・アンドリューズ氏、予備選挙の主催団体で会計係を務めていた人権派弁護士のジョン・クランシー氏など、市民団体の関係者も身柄を拘束された。
クランシー氏は米国人で、国安法違反容疑で逮捕された最初の外国人となった。
予備選挙には60万人を超える香港市民が参加した。全人口の約8%に相当する数だ。
林鄭月娥(キャリー・ラム)行政長官はこの時、この予備選挙を「政府を転覆させる」行動だと述べたが、その理屈は理解しがたいものだった。
何しろ予備選の狙いは、立法会選挙で勝てる可能性が高い統一候補者名簿を提供することと、あわよくば、体制側に有利になるよう大々的に操作されている投票制度で過半数を勝ち取ることだった。