中国が経済協力を武器に“隷属”を求めるなか、日本の世界共同体構想に大きな期待がかかっている

 国民に「10年間でGDPを2倍にする」と高らかに宣伝して登場した習近平政権であったが、米国にドナルド・トランプ政権が誕生して以降は経済成長が阻害され約束を果たせそうになくなり、「新常態」(ニュー・ノーマル)という用語で約束の反古を糊塗した。

 中国の為政者は用語を実に巧みに駆使する。

 香港国家安全維持法にしても端的に言えば、一国二制度のもとに香港市民に認められてきた「自由」や「民主主義」「人権」などの権利剥奪でしかない。

 その延長線上にあるのが、習近平主席が提唱する「人類運命共同体」ではなかろうか。

馬立誠氏の解説による「人類運命共同体」

 習近平国家主席が人類運命共同体の構築に言及したのは2013年3月である。

 この提唱に呼応する形で人民日報の元論説委員であった馬立誠氏は「中国側に寛容を求める」第2の論文を2015年に書き公開する。

 第2の論文というのは、江沢民の歴史解釈で日中関係がぎくしゃくしていたのを胡錦涛政権で正すべく、「日本だけを責める見方から、客観的事実に即した対処」を求める「対日新思考」という第1論文を2002年に発表していたからである。

 第1論文は共産党指導部に少なからぬ波紋をもたらしたようであるが、結果的には「中国共産党、賛否決めず」ということで、その後の馬氏は日本の識者とも会談や鼎談などを行い新思考の理解と普及に尽力する。

 そして日中国交正常化45周年を迎えた2017年9月、「『対日関係新思考』を三たび諭す」を発表する。

 ここでは、日中戦争時に文筆家が書いた相手の国や兵士を思いやる詩文などを取り上げ、こうした内容こそが「人類愛で恨みを溶かす」もので「人類愛の基礎」であるとした。

 さらに、フランスの詩人ヴォルテールや南アフリカの指導者であったマンデラなどが説いた「寛容、憐憫、同情、博愛、和解」が「人類愛の基本元素」となり得ることを示すとして、日中両国の国民が交流して「民意の疎通を図る」ことで和解が一段と進むとした。

 人類運命共同体という構想から日中の和解という政治問題にいつの間にか転移しているが、習近平主席の「人類運命共同体」を日中に当てはめて相互理解に寄与したいという馬氏の意思が感じられた。

 それでも習近平主席の「人類運命共同体」を理解しかねていた筆者は、馬氏と日本人識者との対談なども読み、理解した範囲で小論*1に纏めたが文字通りには受け取れず、著名な馬氏でも真実を隠して立論せざるを得ない状況にあるとみた。

*1=習近平「人類運命共同体」の正体は「中国への隷属」(2020.5.26:https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/60652