大型スクリーンに映る菅義偉首相の記者会見中継(2021年1月7日、写真:長田洋平/アフロ)

(池田 信夫:経済学者、アゴラ研究所代表取締役所長)

 政府は1月7日、東京都など1都3県に緊急事態宣言を出した。これは都道府県知事が飲食店などに営業自粛を要請するもので、昨年(2020年)4月に出したのとほぼ同じだが、昨年5月15日の当コラム(「緊急事態宣言は『壮大な空振り』だった」)で指摘したように、4月の宣言は空振りだった。

 新型コロナ第1波のピークは3月末で、4月7日に宣言が出たとき、感染は減り始めていた。その効果を検証せずに同じような宣言を出して、危機は打開できるのだろうか。

東京の医療は崩壊していない

 今年1月2日に1都3県の知事が政府に緊急事態宣言を要請した理由は「このままでは医療が崩壊する」ということだった。しかし医療崩壊という言葉が「重症患者の数が受け入れ可能な病床を上回る」という意味だとすれば、そういう事態にはまだ至っていない。

 東京都の調べ(1月7日現在)では、重症患者113人に対して確保病床は220床だが、東京には3000台以上の人工呼吸器があり、それを取り扱う技師も1600人いる。図1のように人工呼吸の実施件数は76件で、4月のピークにも達していない。なぜ人工呼吸器の3%足らずが使われただけで「医療崩壊」という騒ぎになるのだろうか。

図1 東京都の人工呼吸器装着数の推移(出所:ECMOnet
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 これはコロナ患者が増えたという需要側の問題ではない。東京のICU(集中治療室)ベッドは1000床以上あるので、フル稼働すれば重症患者が今の10倍になっても対応できる。問題はそのうち2割の病院しかコロナ患者を受け入れない供給側の問題にある。

 このボトルネックを解決しないで飲食店を休業させても、大した効果はない。政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長も「緊急事態宣言で感染が下火になる保証はない」と認めている。