10月28日、国会で施政方針演説を行う文在寅大統領(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

(武藤 正敏:元在韓国特命全権大使)

 12月14日、韓国の国会は、南北関係発展法を一部改正し、北朝鮮に対する「ビラ散布」を禁止する法律(以下、「ビラ散布禁止法」)を本会議で可決した。野党が強く反対する中、与党「共に民主党」が強行採決に踏み切った末の可決だった。

 だがこの法律に対しては、韓国国内からばかりか、米国や国際的人権団体からも批判・反発の声が上がっている。

 ビラ散布禁止法を巡って、韓国の政府・与党は四面楚歌状態にあるのだが、なぜそれほど反発を招く法律を制定しなければならなかったのだろうか。

きっかけは金与正氏の談話

 ビラ散布を禁止する発端となったのは、6月4日に金与正(キム・ヨジョン)朝鮮労働党第一副部長が出した、脱北者によるビラ散布を非難する談話だった。

 その4日前の5月31日、韓国の脱北者らが作る民間団体が、南北軍事境界線付近から北朝鮮に向け、金正恩体制を批判するビラおよそ50万枚を、水素ガスで膨らませた大型風船を用いて飛ばしていた。この行為に対して金与正氏が反応、「南朝鮮はくずたちの茶番劇を阻止する法律でも作らなければならないだろう」などと激烈な談話を出したのだ。

 韓国はすぐさま反応した。金与正氏の談話からわずか数時間後、韓国統一部は予定になかったブリーフィングを急遽行い、「ビラ散布が南北間の緊張と南側地域に環境汚染を引き起こすために禁止法案を準備中だ」と明らかにした。金与正氏の激烈談話に、どれだけ慌てふためいたのかがよく分かる。