中国・上海で開催された国際半導体博覧会「IC China 2020」における中国SMICのブース(2020年10月14日、写真:ロイター/アフロ)

(湯之上 隆:技術経営コンサルタント、微細加工研究所所長)

とうとうSMICがELに掲載されたが・・・

 日本貿易振興機構(JETRO)が12月23日に公開したビジネス短信によれば、米国商務省産業安全保障局(BIS、以下米商務省)は2020年12月18日、中国ファンドリー(受託生産会社)のSMICを、輸出管理規則(EAR)に基づくエンティティー・リスト(EL)に追加した。米国製品(物品・ソフトウエア・技術)をELに記載された事業体へ輸出する際は、事前の許可が必要となる。

 SMICについては、米商務省が9月25日に、アプライド・マテリアルズ(Applied Materials、以下「AMAT」)、ラムリサーチ(Lam Research、以下「ラム」)、KLAなど米国製の製造装置を輸出する場合は、同省への申請を義務化していた(ブルームバーグ、2020年9月27日)。

 その約2カ月後、ロイターは2020年11月30日、米国のトランプ政権が中国人民解放軍とつながりのある企業として半導体製造専門のファンドリーSMICと中国海洋石油(CONOOC)をELに加えようとしていることを報じた。

 加えて、米国防総省が12月3日、中国人民解放軍と関係が深い中国企業としてSMICを指定すると発表した(日経新聞、2020年12月4日)。米投資家の株式購入の禁止対象となるほか、同社との取引も控えるよう求められるとしている。

 そして冒頭の通り、とうとう、米商務省がSMICをELに掲載したわけだ。筆者は前回の記事「米国が『敵』認定で中国SMICに全工場停止の危機」)で、このELが従来通りの輸出規制なら、SMICは半導体工場を拡張・新設することができず、さらに現在稼働中の工場にある製造装置についてもメンテナンスが受けられなくなるため、SMICのすべての工場が停止する危機に直面する可能性があると推察した。

 ところが、今回のELには摩訶不思議な注釈が付いている。前掲JETROのビジネス短信の該当箇所を以下に引用する。

<ウィルバー・ロス商務長官はその中で「EL規制は、中国が世界の不安定化をもたらす軍事活動を支えるために、国内最大手のSMICを通じて米国製技術を活用した中国内の先端技術レベルの引き上げをできないようにするための当然の措置だ」としている。BISはSMICのEL追加理由について、中国政府の軍民融合戦略(注)への加担としており、回路線幅が10ナノ(10億分の1)メートル以下の半導体を製造するのに必要な米国製品の同社への輸出・再輸出・国内移送(以下、輸出など)は原則不許可となる。>

<(注)米国務省によると、中国共産党が人民解放軍を世界クラスの軍に発展させるため、民間企業を通じて外国の技術を含む重要・新興技術を取得・転用する戦略>