ロシア製の戦闘機「su-27」に取り付けられたミサイル

1 脅威を見極めない自分都合の防衛議論

 陸上配置のイージスアショアは、常時展開を余儀なくされている海自イージス艦の負担を軽減しつつ、ミサイル防衛を強化しようというのが発想の原点であったはずだ。

 その後イージスアショアの配置断念により、にわかに敵基地攻撃の議論が出てきたのだが、いろいろな議論が絡み合って、整理ができないまま、イージス艦を2隻増強することで話を濁し、長距離対艦ミサイルを開発・装備化する5年後に仕切り直しという自己都合で話が収束してしまった。

 日本の都合で相手は待ってくれるのだろうか。

 米国が大統領選挙で混乱している間の12月22日、中露の戦略爆撃機など15機が東シナ海・日本海そして西太平洋にかけて悠然と「合同パトロール」を実施した。

 尖閣も含め日本への脅威は先鋭化する一方で待ったなしだ。厄介者の中核は中国だ。

 米国は、大統領がジョー・バイデン氏になるとロシアの脅威にすり替える恐れがあり心配だが、今回の大統領選挙の反動で中国に対する反発も強まるだろう。

 その中で日本だけが極めて重要な国土防衛に関わる検討を5年後からの開始でいいのだろうか。

 そもそも日本の防衛力強化の「主敵」は誰で、いつまでに対抗手段を作り上げなければならないのかの焦点を議論することなく先送りし、また防衛費も微々たる増加に過ぎないが、さも防衛を強化しているような錯覚を国民に与えていることは政府与党の完全なミスリードではないか。

2 問題点の整理

(1) 日本の防衛は誰を対象とするのか?

●今回のミサイル防衛に関する議論は、北朝鮮しか対象にしていないが、これは大きな誤りだ。日本の主敵は明確に「中国」である。

 今でも日本の防衛力整備は、脅威を対象としない平時の防衛力整備であり、そもそも脅威に対処する「脅威対抗型の防衛力整備」ではない。

 これでは北朝鮮の脅威にも、中国の脅威にも対抗できない。

 防衛費を上げたくない財務省や中国との関係を深め経済重視の政治家・経済界にとって問題に触れない方が得策であるからそうしているか、真の脅威が分からないかだろう。

 それとも日本を強くしたくない中国の影響を受けているからだろうか。ショウウインドウに並べた防衛力のサンプルだけで日本を防衛できると言うのはまやかしだ。

 その結果、日本は北朝鮮にすら対抗できない装備、絶対的に足りない弾、人も不十分で貧弱な防衛力のままだ。誰一人として日本人は軍事的脅威から守られていないということだ。

●中国の軍事費の増加は報道の通りであり、習近平総書記は軍隊に「戦争に勝て」と檄を飛ばしている。そのような姿を異常と思う日本人はいるはずだが、NHKや民放がこのことを一切報道しない。 

 これまで何度も言及したが、中国にとって日本を含む第1列島線は、中国の経済的核心地域、すなわち中国共産党の存続に直結する経済的繁栄の源である沿岸地域を防護するための必須の盾であると同時に、米国と対峙する時の出城でもある。

 従って第1列島線の国々の意向に関係なく、いずれ中国は必ず第1列島線の国々を篭絡するか、軍事的に占領するだろう。

 軍事力や経済力の増大を背景に、力の及ぶ範囲が自らの領土であるという危険な思想や、人類運命共同体構築に突き進む今の中国は極めて危険である。

 一方、米国は、「米国は領有権、海洋権益で中国に侵害されている世界中のすべての国を支持する」「中国共産党から自由を守る事は時代の使命」として中国との軍事対決も辞さずという決意である。

 コロナで第2次世界大戦を上回る33万人以上の死者が出たことおよび大統領選挙へ中国が関与し民主主義を破壊した濃厚な疑惑は、米国が中国の挑戦に応じて戦う大義でもあるし、共産主義から自由を守る事は国際的大義でもある。既に大義は確立した。

 米国は大統領選の結果にかかわらず、2021年には太平洋で米軍の大演習を計画中である。

 そうした中で、日本は米中を両天秤にかけ続ける実力があると思っているのか。もしそうならば、日本はただ単に米中の戦場になるだけである。