誤報で揺れるニューヨーク・タイムズの本社(写真:ZUMA Press/アフロ)

「拘束者を次々と斬首」は嘘だった

「灰色の貴婦人」のドレスのすそに火がついている。まだぼや程度だが、へたをすると大火事になる。

「灰色の貴婦人」(A Gray Lady)とは、ニューヨーク・タイムズのニックネーム。

 創刊当初から第1面は段抜きの大見出しはつけず、左右対称の地味な紙面作り。貴婦人のように気取っていたところからそう呼ばれた。

 そのニューヨーク・タイムズの女性花形記者が「ガセネタ」を掴まされて事実無根の情報をポッドキャスト(インターネットラジオ)で流してしまったのだ。

 取材源はパキスタン系カナダ人のアブ・ハザイファ(25=本名シロゼ・チョウドリー)。移民2世だ。

 シリアに行き、過激派組織IS(イスラム国)に参加し、その間、拘束していた市民の何人かを処刑したと「証言」していた。その手口などを詳細に明かした。

 ニューヨーク・タイムズのラクミニ・カリマッチ氏(39=当時)は、この「証言」を100%信じ、2014年12月、同紙がポッドキャストで12回にわたって発信した大型企画「Caliphate」(キャリフェイト=イスラム指導者カリフの支配圏)に引用した。

 ISによる残虐極まりない斬首の実態を生々しく、しかも淡々と語るハザイファの肉声はポッドキャストを見聞きした読者にショックを与えた。

https://www.npr.org/2020/12/18/944594193/new-york-times-retracts-hit-podcast-series-caliphate-on-isis-executioner

 その報道は反響を呼び、2019年度のピーボディ賞を受賞、2020年度のピューリッツアー賞候補にも選ばれていた。

(ニューヨーク・タイムズは「誤報」判明でピーボディ賞を返却、ピューリッツアー賞候補も辞退した)