(英エコノミスト誌 2020年12月19・26日合併号)

ウォレン・ハーディングは1920年の米大統領選挙で、「ノーマルシー(常態)」という新語を軸とした選挙戦を組み立てた。
国民は第1次世界大戦やスペイン風邪の恐怖を忘れたがっている、黄金時代の確実性に戻りたがっているとされ、ノーマルシーはそうした心情に訴えかける言葉だった。
ところが、1920年代はハーディングの言う常態を受け入れず、社会、産業、芸術のすべてにおいて、前向きでリスクをいとわない新機軸が咲き乱れる「狂騒の20年代」になった。
「ジャズ・エイジ」とも称されるこの10年間が抑えの効かない時代になったことは、戦争とも関係していた。
スペイン風邪も同様だ。
米国はこの時のパンデミックで、第1次世界大戦の戦死者の6倍に上る死者を出し、生き延びた国民は1920年代を猛スピードで生き抜きたいと思うようになった。
この精神が2020年代にも活気を与える。
新型コロナウイルス感染症「COVID-19」に苦しめられている人の多さ、パンデミックであぶり出された不公正と危険、そしてイノベーション(技術革新)への期待が重なったことで、2020年は何もかもが変わった年として記憶されることになるだろう。
ついに回ってきた天文学的なツケ
今回のパンデミックは1世紀に1度の出来事だ。
新型コロナウイルス「SARS-CoV2」が検出された人は累計で7000万人を超えており、診断を下されなかった感染者が別途5億人以上いる可能性がある。
記録された死者数は160万人に達し、コロナと記録されずに死亡した人は数十万人に上る。感染症から回復したものの、「ロングCOVID」の疲労感と虚弱に苦しんでいる人は数百万人いる。
世界全体の国内総生産(GDP)は、パンデミックがなかった場合の数字を少なくとも7%下回り、第2次世界大戦後で最大の落ち込みとなっている。
これだけの犠牲と苦しみが重なれば、人生とは蓄えるものではなく生きるものだという感覚が生まれてくるだろう。