中国の「J-10」戦闘機。China Military より

 日本国内では新型コロナウイルス感染症の拡大で持ち切りになっている。

 しかし中国は、各国がコロナウイルスへの対応に忙殺されている間に、わが国との尖閣諸島をめぐる対立のみならず、台湾、米国、インド、豪州、東南アジア諸国などの諸国との紛争を同時に多発させている。

 その背景にはどのような戦略や意図があるのであろうか?

 今年10月に発刊された劉明福著『新時代の中国の強軍夢(新时代中国强军梦)』(中共中央党校出版社、2020年11月)には、習近平体制下での「強軍夢」の位置づけ、意義、その狙いと戦略思想、実現に至る時間表などについて、細部が論述されている。

 著者は1969年に人民解放軍に入隊後、作戦部隊に10年、戦区機関に20年、国防大学に17年間勤務した、現職の国防大学教授であり、「全軍優秀共産党員」に選ばれている。

 個人の著書ではあるが、その立場上、習近平体制下の党と人民解放軍の意思や思想が色濃く反映された文書とみてよいであろう。

人民解放軍が対処すべき脅威と守るべきもの

 習近平中国共産党総書記は、2018年10月の中国共産党第19回全国代表大会で、本党大会の主題が「新時代の特色ある社会主義の偉大な勝利を勝ち取り、中華民族の偉大な復興という中国の夢の実現のために怠りなく努力すること」にあると宣言している。

 そのための基本戦略として14の方針が掲げられたが、その中に「党の人民軍隊に対する絶対的指導の堅持」がある。

 この方針の中で、「指揮系統を一元化し、戦って勝てる、優秀な人民軍隊を建設することが、第18回党大会で提起された「2つの100年」という奮闘目標を実現し、中華民族の偉大な復興と言う戦略実現の重要な基盤を実現することである」と、「強軍」建設の決定的な重要性が強調されている。

 これが「強軍夢」として、偉大な中華民族の復興と並ぶ長期戦略目標として採り上げられることになる。

 本書では、21世紀に中華民族の偉大な復興と言う夢を実現する上での危険には以下の5つがあるとしている。

①中国への侵略
②政権の転覆
③国家の分裂
④安定的な改革と発展のための環境の破壊
⑤中国の特色ある社会主義の発展進展の断絶

 これらの中でも①、②、③の目標は共産党独裁体制の強化と覇権拡大を直接目指す上での障害であるが、④、⑤は逆にそのような覇権主義的な行動や国内での独裁強化の動きにより、国際的な反発や警戒の結果、招くおそれもあり、①、②、③と矛盾している。

 南シナ海での動きなどを見れば、そのおそれがあることは十分に予測できるはずである。

 しかし、この矛盾点について、その後の論述では明確な分析がなされないまま、主に①、②、③の脅威に対する「強軍夢」、言い換えれば、軍事力強化による対外的な覇権拡大主義だけが突出して論述されている。

 防衛すべきものとしては、以下の4項目が挙げられている。
①中国共産党の指導的地位と中国の社会主義制度
②国家の主権、統一、領土の完全回復
③中国の海外利益の不断の発展
④世界の和平と発展

 ①については、中国共産党の歴史を振り返り、新時代に入った今日、「中国号」は中国夢実現成功に舵を切り、偉大なる目標への遠洋航海に乗り出した、中華民族の歴史上のみならず人類史上における一大物語であると自画自賛している。