9月8日、北京の人民大会堂で行われた新型コロナとの闘いに貢献した学者らを表彰する式典での習近平国家主席(写真:AP/アフロ)

(黒木 亮:作家)

 さる12月2日、米下院で「外国企業説明責任法(The Holding Foreign Companies Accountable Act)」が全会一致で可決された。これは、外国政府によってコントロールされるような額の出資を受けているか、役員に中国共産党のメンバーがいるかなどの情報を企業に求めるほか、米当局による会計監査状況の調査を3年連続で拒否した会社を上場廃止にするものだ。

 法案には「外国企業」と名がついているが、実質的には「中国企業」を狙い撃ちにしたもの。法律が施行されれば、米国で上場している217社のうち少なくない数の中国企業が上場廃止となり、米国市場から追い出されるとも言われている。

 すでに上院は5月に全会一致で可決しており、近々、トランプ大統領がサインして法律となる見通しである。

 法案は一見すると、トランプ政権の対中強硬策の一環に思える。しかし、それだけではない根深い長年の問題がある。それゆえ、民主党が過半数を占める下院でも全会一致で可決されたのだ。問題を一言でいうと、中国企業が10年以上にわたって、米国の証券市場で滅茶苦茶をやってきたことである。

リバース・テークオーバーと裏口上場

 話は2005年前後にさかのぼる。この頃から中国企業は、体力の弱った米国の上場企業をリバース・テークオーバー(逆買収)して、米国での上場ステータスを手に入れる「裏口上場(back door listing)」を盛んにやった。中国企業であれば、上海や深圳の証券取引所に上場するのが普通だが、中国の上場審査が厳しく、かつ手続きも遅く、最長で2年半を要していた。これに対し、裏口上場なら手続きは半年程度で済み、米国での上場審査もバイパスできる。こうして2012年頃までに300を超える中国企業が米国の上場企業になった。

 米国のほうでも中国企業を歓迎した。買収を仲介する投資銀行には巨額のアドバイザー手数料が入るし、米国市場で株式を発行した際には引受手数料も入る。やればやるほど儲かるので、資金調達をしたい中国企業や金持ちになりたい中国企業の経営者にアプローチし、「裏口上場という手があるよ」と囁いた。案件に関わる法律事務所や会計事務所も儲かった。米国の投資家も、急成長する中国の企業に投資したい一心で、こぞって株を買った。