香港デモ裁判で出廷する周庭氏(2020年11月23日、写真:ロイター/アフロ)

(勢古 浩爾:評論家、エッセイスト)

 わたしが香港の民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)さんを知ったのは、たぶんテレビ東京の番組で、彼女がまだ高校生のときだった。

 香港の民主化を求める「雨傘運動」で学生団体のスポークスマンを務め、その容貌の愛らしさもあったのだろう、「民主(学友)の女神」と呼ばれた。日本の高校生がアイドルやアニメやインスタグラムに夢中になっているときに、香港ではこんな高校生がいるのかと思ったが、周庭さんも元々は日本のアニメやアイドルが好きなふつうの高校生だったのである。

 成人してからも、彼女は「オタク」を自認しているが、それでもTikTokは中国製のアプリだから使わないと、そのへんは日本の若者とはちがい、はっきりと自覚的である。

 その周庭さんが、11月23日、香港の活動家の黄之鋒(ジョシュア・ウォン)氏と林朗彦(アイバン・ラム)氏とともに裁判にかけられ、即日収監された。

 今年7月に香港国家安全維持法(国安法)が成立した後、「香港衆志」という政党の党首で、香港で史上最年少の議員だった民主派活動家の羅冠聡(ネイサン・ロー)氏が、イギリスに脱出したと報じられた。わたしは周庭さんも危ないのではないか、可能なら海外に脱出したほうがいいのではないかと思った。しかし彼女は去年10月、北海道大学公共政策大学院の研究員に任命されたのだが、「とても光栄」といいつつ「出境を禁止されている私」だから、北大にいけるようになるのはいつになるかわからない、といっていた。彼女はすでに中国政府から出国を禁じられていたのである。

「私は1人じゃない」

 民主派に対する締め付けはますます厳しくなった。10月27日、香港の民主活動家4人が政治的亡命を求めてアメリカ総領事館に駆け込んだが、外交問題なることを恐れたのか、拒否された。11月1日には、立法会(議会)現職議員4人を含む民主派政治家7人が香港警察に逮捕された。それに抗議して、民主派議員15人が11日、全員辞職をした。これに対し、米英豪加新(ニュージーランドね)5カ国の外相は中国に即座に抗議し、復職させるよう求めた。当然いつものことで、日本は入っていない。

 危惧したとおり、周庭さんは今年8月10日に逮捕された。その事件のことは、まだ記憶に新しい(さいわい即日釈放された)。彼女は香港民主化運動に参加して8年になるが、これまでに4回逮捕されたという。しかし8月10日の逮捕の「怖さはとんでもなかった」という。そのときの状況と恐怖を、彼女は自身のインスタグラムに日本語でこのように書いている。