早稲田大学ビジネススクール(WBS)は、MBAプログラムの前身である1973年のビジネス教育に端を発し、50年に近い歴史の中で、「実践的な知識の創造」「グローバルな視点を有したリーダーの養成」「ラーニング・コミュニティの形成」をミッションに掲げる。
実務家教員と、経営分野の第一線にいる研究者教員がともに教え、ケースメソッドの授業を通じて、机上の空論でも経営経験の単なる伝承でもない「実践的な知識」を生み出しているのが特徴だ。

知識を求めて

早稲田大学理工学部応用化学科、東京大学大学院農学生命科学研究科を卒業後、大手印刷株式会社に入社。大手食品メーカー担当の営業職を経て、新規事業開発担当としてベンチャー企業とのアライアンス締結等経験。2017年4月より、WBSの夜間主総合コースに入学。卒業後、アクセンチュア株式会社に入社。戦略コンサルタントとして、主に通信・ハイテク業界の新規事業戦略等を推進。

 2019年にWBSを修了したSさんは、アクセンチュア株式会社で戦略コンサルタントとして働く。Sさんの前職は大手印刷会社。法人担当の営業として、クライアント企業と共にパッケージを作る業務をしていた。
「現場にいると、クライアントだけでなく、マーケター、購買部門など、いろいろな分野の言語が飛び交います。その中で、『自分はまだ管理会計やマーケティングの知識が足りない』『実務に生かせる知識を勉強したい』と思うようになりました」というSさん。

学びの機会を探る中で、「WBSを選んだのは、実務家の教員が多かったからです」とSさんは言う。「実務に直接生かせる経験ができるのではと思いました」
WBSの夜間の2年コースに申し込み、入学を決めた。

本当に必要なのは知識の先にあるもの

 入学したSさんは山根節教授の『マネジメント・コントロール』という授業を受けた。
「大変印象的な授業でした」とSさんは言う。

「WBSはケーススタディの授業が多いのですが、この授業も、ケースブックを見ながら実際のケースについて議論するというものでした。その当時の経営環境を知り、財務諸表を見ながら議論を進める。でもそれだけではありませんでした」
「自分がその環境に行ったらどう意思決定をするか?なぜその意思決定が必要か?といったことを、当事者の立場に立って考える授業でした」

「最初のうちは答えが出せませんでした。前職では、『テクニカルな知識を使って仕事をすること(How)』は得意になりましたが、『何をすればいいのか(What)』『なぜそれをやらなければならないのか(Why)』を考える機会が少なかったんです」

「私にはWhatやWhyを考える力がまだ足りない、その力をつけたいと思うようになりました」
1年次の後半、Sさんは平野正雄教授の「グローバル経営の戦略研究」ゼミに所属することを決める。

ゼミと論文が新しい道へ踏み出すきっかけに

 平野ゼミでは「4チームに分かれて半年でビジネスの戦略立案をしました」と振り返るSさん。
「平野教授は戦略コンサルタント出身。どういう思考プロセスで経営者に響くインパクトのある戦略を立てているか、といったことを学びました。コンサルタントの仕事って面白そうだなと思うようになりました」

 論文のテーマには農業を選んだ。「規制緩和が始まったにも関わらず、農業が活性化しないのはなぜかをテーマに研究を進めました」
「もともとぼんやりと疑問はありましたが、その問題を引き起こす構造は何か?何が原因か?を考えていく作業でした。『問題提起』して、『問題を分解』し、『仮説をぶつけて』『検証する』という4段階のステップで考えました。これは、コンサルタントの思考方法とも重なるものでした」

 ゼミでは、「パーソナリティを理解し、自分の進みたい道を考え、ゼミメンバーの前で発表・フィードバックを受けるというトレーニングもありました」とSさんは振り返る。
「それがまた、自分の人生を見つめ直し、新しい道に踏み出す勇気をもらえたきっかけにもなりました」

転職を決める

「ゼミやWBSのケーススタディの授業を通じて、問題設定力や課題解決能力など、ビジネスパーソンとして必須のスキルを磨きどんな環境でも活躍できるようになりたいと思うようになり、戦略コンサルタントへの転職を決めました」

 Sさんはコンサルティングファームへの転職活動をする中で、「これからの経営に必須の要素となるであろう“デジタル”に強い」という理由からアクセンチュア株式会社に入社した。

「まだ1年ですが、ニュースなどの表面的な情報から裏側のメカニズムを考えるということは、今の仕事でもやっています。戦略コンサルタントの面白さや思考プロセスを教えてくれた平野先生をはじめ、WBSでビジネスに必要な基礎的知識を学べたことは価値になっています」

世界を見つめる視点

 2020年5月末から、新型コロナウイルス感染症拡大の中、WBSは在学生やOB/OGに向けて、緊急特別講義「WBS教授陣の考えるコロナ危機とその後の世界」を開講した。10回にわたる講義の中で、Sさんの学んだ平野教授は『コロナ危機がビジネスに与える影響』を担当し、Sさんも受講した。
「卒業生としても、学ぶ機会があったのはよかったです」と話すSさん。

「今、パンデミックで世界的な危機が起こっています。でも危機というのは、今までの世界の歴史の中でもいろいろとありました。こうした歴史的な背景を踏まえて、『どんな企業が生き残り、成功しているか』『なぜ危機的事態を乗り越えることができたのか』について、多くの先生たちからインサイトをもらいました」

「先生たちだけでなく、WBSに入ってから、普段は出会えないような実務家や学友から本当にいろいろな考え方を学びました。人脈が広がったし、それは一過性のものではなく、一生大切な繋がりです」とSさん。
「ビジネスのスキルが2年間で学べるのも魅力ですが、それ以上に『WhatやWhyを考える姿勢』を学べたことは『ビジネスパーソンの基本のOS』を作る助けになっています」

<取材後記>

「知識をつけることはできる。でもそれをどう活用するか、どういうシーンで適用するか、なぜ必要なのか、を考えるまた別の力も、必要になる。知識も、使い道が分からないとフィットしない」
Sさんの話した言葉は、今、激動の時代に世界が大きく作り直されていく中で、胸に強く刺さる。


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