金正恩朝鮮労働党委員長(写真:ロイター/アフロ)

 アメリカで11月3日に大統領選挙が行われてから、はや20日が経とうとしている。ドナルド・トランプ大統領はいまだ敗北を認めないものの、すでに多くの国々が、ジョー・バイデン次期大統領当選者に祝福の電報を送っており、うち主要な同盟国の首脳は、電話で直接、祝意を述べた。11月12日に電話で15分弱話した日本の菅義偉首相もその一人である。

 そんな中、いまだ沈黙を貫いているのが、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長だ。10月2日に、トランプ大統領が新型コロナウイルスに感染していることを告白した際には、見舞いの電報まで送って、トランプ大統領を感激させた。それが大統領選挙の後は、とんと音沙汰がない。

 いったい北朝鮮はいまどうなっていて、バイデン新政権とは、どう付き合っていくつもりなのか? 北朝鮮の「後見国」とも言える中国から、長年「平壌奥の院」をウォッチしている人物に話を聞いた。

トランプ大統領との首脳会談が金正恩委員長の最大の誇りだったのに

――北朝鮮はなぜ、バイデン次期大統領当選者に祝電を打ったり、官製メディアを通じて祝意を述べたりしないのか?

「それは、主に二つの理由による。第一に、金正恩委員長の『トランプ敗北ショック』が、あまりに大きいことだ。

 金正恩委員長は常々、幹部たちの前で、『オレはトランプ大統領と3度も会談したんだ』と自慢していた。祖父の故・金日成(キム・イルソン)主席も、父親の故・金正日(キム・ジョンイル)総書記も、アメリカの大統領と握手することはかなわなかった。それを自分は3度も実現したというのが、若くて実績もほとんどない金委員長にとって、最大の誇りだったのだ。

 実際、金正恩政権はトランプ政権と、密かにトランプ政権2期目の米朝関係に関する青写真を描いていた節がある。つまり、米朝でどうやって北朝鮮の核開発問題に決着をつけるかを、両首脳の間では決めていたのだ。

 金正恩政権は、来年1月に第8回朝鮮労働党大会を開くと宣言している。これも1月20日に2期目の4年を始める予定でいたトランプ政権と足並みを揃えて、米朝新時代を謳おうということだった。

 ところが、そのトランプ大統領が、あろうことか敗北してしまった。そのため、平壌中区域の金正恩官邸は、まるでワシントンのホワイトハウスのように、沈鬱なムードが漂っている。

 側近の幹部たちは、『選挙に不正があったようです』とか、『まだ確定したわけではありません』『トランプ大統領は裁判で争うと言っています』などと阿諛追従を述べて、金委員長を慰めている状態だ」