(英エコノミスト誌 2020年11月14日号)

突然IPOが延期されたアントグループの本社(10月29日撮影、写真:ロイター/アフロ)

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中国の民間企業の行く手に、恐ろしいほどの障害が立ちはだかっている。

 2018年の後半に開かれた中国で最も裕福な起業家たちとの会合で、習近平国家主席は、国家が自国の民間セクターに宣戦布告したのではないかとの懸念を和らげようとした。

 それまでの1年間に、北京の官僚たちが扱いにくい企業経営者を次々に屈服させていたにもかかわらず、国家主席は、民間セクターで党の影響力を無理やり拡大しているとの噂は間違いだと断言。

「定心丸を飲みなさい(安心しなさいの意)」と熱心に説いた。

 この薬をそのまま飲み込むのは難しい。この会合以降、中国共産党は企業の人材採用や経営判断に、より積極的に関与しようとしている。

 そして国家は、事業を拡張しすぎた金融コングロマリット(複合企業)の強情な経営者たちを制圧した後、その矛先を国内のハイテク企業の億万長者たちに向け、あからさまに党を批判するなら容赦しないという姿勢を明確にしている。

 習氏はかねて、中国の社会・金融の安定を維持することを最大の関心事としている。

 大企業にタガをはめておくこともその計画の一環だ。国が今、急拡大を成し遂げるハイテク企業に全神経を集中しているとしても、特段不思議なことではない(右図参照)。

 中国の市場時価総額上位20社のうちハイテク企業は6社を占めているうえ、そのサービスの利用者は数十億人に達しており、ほとんどの市民の生活と財布に関係しているからだ。

土壇場で延期された大型IPO

 そうしたハイテク業界の報いは、中国最大のフィンテック事業グループへの警告のようなものから始まった。

 11月5日に予定されていた370億ドル規模のアント・フィナンシャルのIPO(新規株式公開)が、実行まであと48時間足らずというタイミングで規制当局により延期されたのだ。

 当初は、中国の国有銀行を以前批判した創業者の馬雲(ジャック・マー)氏への警告だとしか解釈されなかった。

 ところが11月10日、ハイテク企業を対象とする大部の新ルールの草案が発表され、中国政府がアントだけでなく中国のハイテク業界を丸ごと屈服させようと企んでいることが明らかになった。